I'm here!

最初に聞いた音はドタンバタンと誰かが外で跳ねる音。
何をしてるんだろうと立ち上がって見に行こうとしたが体が動かない。なんで?と思ったが狼の姿に戻ったロキが膝の上に頭を乗せて寝ているからだった。寝ているその頭を撫でるとくすぐったそうに身を捩る。その間も音は続いていた。

「何の音だろう...」

「空の騎士がここの戦い方を教えてるだけだよ。」

「ロキ...起きてたんだ。」

うっすらと目を開けた彼の言葉に安心してまた目を瞑ろうとしたその時外からナミさんがやめてと叫ぶ声が聞こえた。

「今の!!」

「大丈夫だよ。船が壊されそうになって怒ってるだけだから。」

「そうなの?」

ロキは動物で聴力もいいから部屋の中からでも音が聞こえるのだろう。耳をぴくぴく動かして煩そうに眉間に皺を寄せている。

ロキがそう言うんならと寝直そうとした時、またナミさんの声が聞こえた。

(おかしい...)

船を壊されたら怒るのは当たり前だが外から聞こえた声は怒っているというより切羽詰まるような声だ。

「ねえ...何かおかしくない?」

「何がって、カズハ!!」

ロキが頭をもたげる一瞬の隙を突いて足を引き抜き甲板へ出た。そこには黒コゲになって倒れるサンジさんとウソップさんに暴力を振るう顔も格好も瓜二つな双子の姿。

「カズハ!ちょうど良かった、こいつらを船室に!!」

「は、はい!!!」

何が起こっているのかわからず立ち尽くす私をナミさんの声が動かす。彼女に言われるまま、二人を中に入れて傷を見た。

「酷い...」

双子の攻撃か二人共全身に火傷を負っていた。手当てをしたいが治療器具はこの部屋にない。この部屋から出ないといけないが外ではナミさんが戦っている。
どうしようと考え込む私の視界にロキとルークの姿が入った。

「ロキ、ルーク!あの窓から出て上の部屋から救急箱を取ってきて!!」

船室の窓を開けて二匹を促す。
私が出たら目立ってしまうがルークと小人になったロキなら彼らに気付かれることなく救急箱を取ってこれるだろう。私の意図を理解した二匹は窓から飛び出した。しばらくすると救急箱を持って戻ってくる。彼らから箱を受け取るとさっそく治療に当たる。外ではまだナミさんと空の騎士が戦っている音が聞こえていた。

一人目の治療を終わる頃に外は静かになった。

「終わった...の?」

壁の向こう側から何か音がしないか、耳を澄ませたカズハの耳に微かだがナミの声が聞こえた。
良かったと胸を撫で下ろした彼女は外に出ようと扉に手を掛けたその時扉が勢いよく開いた。

「もう!ホント信じらんない!!」

「い゛っ!!っ〜〜〜〜!!!」

勢いよく開いた扉の角に額をぶつけたカズハが痛みに悶絶する姿を見て咄嗟にごめんと謝った彼女は部屋の中を見渡すと大きく目を見開いた。

「これ...あんたがやったの?」

「は、はい!えっと...これで大丈夫でしたか?」

あと火傷をしてるみたいなので昨日チョッパー君が作った薬勝手に使っちゃいましたと言う彼女にナミはすごいと称賛の声を送った。

「私は医者じゃないからよくわからないけど手当ても包帯の巻き方もよくできてるんじゃない?あんたこういうの詳しいの?」

「どうでしょう...救急箱を取ってきていざ治療しようとしたけどどうしていいか分からなくて...」

でも不思議と体が勝手に動いたんですと彼女は笑った。

「ねえ空の騎士はどこに行ったの?」

「そうよ!!レディを二人置いてどこかに行っちゃったのよ!!」

そう言えばと言ったロキの質問にナミはあの人でなし!!と怒った。

・ ・ ・

「これからどうしますか?」

二人の治療を終えたカズハがそう聞けばナミは溜め息混じりにそうねと言った。

「どうするも私達は船を約束の海岸に着けて探索組が戻ってくるまで動けないわよ。」

「ですよね〜。」

こんな危険な場所さっさと出たいわとの声にカズハも賛同する。ナミはそんな彼女に聞くまでもないけどと前置きをしてあんた戦える?と聞いた。

「いえ全然これっぽっちも。」

ぶんぶんと手をふって答える彼女にナミはだよねと言った。

「二人は動けないから私達でなんとかするわよ。」

「足手まといにしかならないけど頑張ります!」

何か武器になるものと箒を持ってカズハはナミと一緒に甲板に出た。すると前方の雲の川に何かが降ってくる。

「え...何!!?何々!!?」

「ヤダヤダやめて!!こんなに早く来ないでよ!!!」

部屋から持ってきた箒を落とし、両手を胸の前で構えたカズハは涙目になって叫んだ。

さっきの戦いは怖いと思わなかった。怖いというより頭がついていかない、何が起こっているか理解できていなかった。ナミの声で体は動いたが思考が追いついたのは二人を治療している時。
それでも全てを理解することができない彼女を襲うのは恐怖。漠然としたそれは彼女をパニックに陥らせるのに十分だった。
隣にいたナミの服にしがみつきガクガクと膝を震わせるカズハ。ナミは動けないじゃないと彼女を離そうとぐいぐい押すが前に押し出される形になるので彼女は必死に服を掴む。そんな二人にまるでここにいるぞと知らせるかのようにけたたましいラッパの音が近付いてきて、もうダメだとぎゅっと目を瞑った彼女の隣にいる女性の名を呼ぶ声が届いた。

「コニス!!おじさん!!!何でここにいるの!!?」

ナミの声を聞いたカズハはゆっくりと膝をついた。
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