今はただがむしゃらに走り続けるだけ。立ち止まることは許されない。後ろを振り返るなんてなおさら。私がやるべきことは自分に与えられた役割を果たすことだけ。
後悔はない。それしか方法を知らなかった。今更それを変えることなんて到底無理な話だ。なのに...なんで......
「今日限りを以て遂行中の任務を中断し、日本に渡ってもらいたい。」
厳かな声で彼は言った。一目でその価値の高さがわかる調度品が置かれたこの部屋に見合う老いた男。
彼に手渡された資料にはおよそ現実味を帯びない、絵空事のような文字が踊っている。
「...なんで...なんで今更、私にこんなことさせようとするんですか。」
色んな感情が渦巻いて頭が真っ白になりそうだ。力をこめすぎて手に持った資料がグシャリと潰れる。目の前に座る彼はそれをただ静かに見つめていた。
「なぜ、と言われても、これには君が一番適任だと思ってしたまでだよ。」
無情に放たれた言葉に少女は苦々しげに顔を歪める。
「君の立ち位置は昔から何も変わっていない。確かに、君が行くことで彼らはより多くの危険に晒されるだろう。それを承知で君に行ってもらいたい。」
「なんで、」
そう言った少女の声は震えていた。顔を俯かせるその表情は見えない。その声は怒っているようにも泣いているようにも聞こえる。
「さっきも言っただろう。君が一番適しているからだ。」
彼は固まっていた表情を破顔して続けた。
「こんなことを言うのはきっと、私が五年前に君にしてしまったことを後悔しているからかもしれないね。あの時、本当は君にこんな道を歩んでほしくなかった。君に元いた場所に帰って欲しかった。」
思い詰めたような表情とその言葉に少女は弛く首を振った。
「これは私が決めたことだよ。
「私はそれを君に強要することもできたがそうすることができなかった。」
「
目を閉じて追想する少女は気付かない。少女の言葉で何かを告げようか悩む彼の表情に。