02

現実はいつも無情。

話を終えた少女が部屋から出ると勿体振るようにゴホンと、咳きこむ男がいた。

「家光さん...」

少女が彼の名を呼ぶとよっ!と片手を挙げて彼は応える。

「時間はあるか?」

「えっと、少しだけなら。」

「そうか。」

「場所を変えますか?」

「いや、ここでいい。」

そう言って彼は懐から一通の封筒を取り出した。

「これを娘に渡して欲しいんだ。」

「私ではなくご自身で渡した方が良いのでは...それに、私は。」

真剣な顔つきで放たれた言葉に少女は顔を引き締めた。だがその顔はすぐに歪められる。それを見た彼は驚いて聞いた。

「日本に帰らないのか?」

少女は顔を俯かせ黙ったまま何も答えない。

「そうか。」

その低い声音に少女はびくっと体を震わせた。

「ああ、すまない。脅かすつもりはなかったんだ。ただ、な。あいつは俺がいるよりもお前がいた方が嬉しいと思うんだ。」

「それは違います。彼女だって家光さんが側にいてくれたらどれだけ心強いか...」

情けない顔で吐かれた弱音を少女はきっぱりと否定した。

「確かに彼女は貴方のことを良く思ってはいないと思います。でも父親が、家族が側にいてくれることってとっても嬉しいことなんです。家光さんこそ帰ってあげるべきじゃないですか?」

「それくらい充分理解してるさ。でもな、俺はまだ帰れないんだ。だから俺の代わりにあいつを支えてやってくれ。」

頼むと90度、直角に頭を下げる。その様子に少女は狼狽えた。

「私は...」

少女が答えようとしたちょうどその時。一人の長身の女性が二人の前に現れた。

「失礼します。ソフィア様お時間です。」

「もうそんな時間なの?」

「すまん。引き留めて悪かったな。今は返事をしなくていい。ゆっくり考えて、それから答えてくれ。」

少女が女性と話している内に邪魔したな。と足早に去っていった。

「あ...」

「話の腰を折ってしまいましたか?」

少女が声をかけようとした時にはもうすでに、彼との距離はかなり開いていた。女性は二人の会話を妨げた自分の至らなさに申し訳なさそうな顔をした。

「ううん。答えにくかったから逆に助かったよ。」

行こと、女性に声をかけ少女は歩き出した。その表情は暗く、思い悩むもの。女性は心配そうにそれを見ていたが何も言わずに少女の後を追った。