02

赤い色も危険。

ブニョンブニョンと奇妙な音が響く教室。音の原因はイジケた先生。さっきカルマにおちょくられて教室の壁に当たっているのだ。今はテスト中だというのに、切実に空気を読んでほしい。

「よォカルマァ、あのバケモン怒らせてどーなっても知らねーぞー。」

「またおうちにこもってた方が良いんじゃなーい。」

「殺されかけたら怒るのは当たり前じゃん。寺坂、しくじってちびっちゃった誰かの時と違ってさ。」

「な、ちびってねーよ!!テメケンカ売ってんのか!!」

「こらそこ!!テスト中に大きな音立てない!!」

しかも隣は隣で呑気に話してる奴らもいたし。先生は怒ったが先生、その言葉そっくりそのままお返しします。
それにしても...こういう言葉を物ともしないところはカルマらしいちゃカルマらしい。

「ねー奈々緒、早く終わらせて一緒に帰ろうよ。」

これでうざ絡みさえなかったら少しはマシになるのに...

「黙れ。そして帰るなら一人でさっさと帰れ。今はテスト中。空気読めないふざけた奴はあいつだけで十分だ。」

むしろあいつも要らないがこいつと比べたら多少はマシである。

「...沢田さん。今カルマ君に毒突く時に先生までディスりましたよね。」

「本当のこと言ったまでですが何か?」

「いえ...なんでもありません。」

「怖っわ。今日の奈々緒ぴりぴりしてるねー。何かあったのー?」

「..................」

「おーい。」

「..................」

「奈々緒ー?」

「カルマ君!今はテスト中ですよ!!」

気にしたら負けだと、心の中で呟き隣からの声を全て無視する。先生に二度目の注意を受けた彼は大人しく...なる訳がなかった。

「ごめんごめん殺せんせー。俺もう終わったからさ、ジェラート食って静かにしてるわ。」

いつの間にどこから取り出したのか美味しそうなジェラートを食べるカルマ。奈々緒も食べる?と聞かれた。だから今はテスト中だろ!!

「ダメですよ授業中にそんなもの。まったくどこで買って来て...そっそれは昨日先生がイタリア行って買ったやつ!!」

クラス中がお前のかよとツッコミをいれている中、私はその言葉にピタリと手を止めた。

(イタリア...)

あいつがいる場所だ。そっか...先生だったらイタリアまで行くことなんて簡単なんだ。羨ましい。

物思いにふける意識を戻したのは誰かにシャーペンを取られたからだった。

「奈々緒も終わったでしょー?じゃ、帰ろっか。じゃね「先生」〜明日も遊ぼうね!」

「は?おまっ!ふざけんなっ!!」

手早く荷物をまとめて持ち私の首根っこを引っ張ると有無を言わさず外に連れていかれた。玄関まで来ると手を離されたのでカバンを引ったくるように取る。

「どういうつもり?まだ終わってなかったんだけど。」

「終わってないのは見直しだけでしょ?大丈夫だよ。奈々緒は満点だから。」

満点かどうかはさておき、カルマの言う通りだし、今から教室に戻るのも嫌だったのでそのまま帰ることにした。途中まででも一緒に帰りたくなかったので足早に歩くとぴたりと横に並んでくる。

「さっき...俺が先生おちょくってた時何考えてたの?」

「何の事。」

カルマの確信めいた質問にしらばっくれて更に速く歩く。カルマは訳もない顔で着いてくる。そして爆弾を落とした。

「嘘だね。先生がイタリア行ったのが羨ましかったんでしょ。確か...親友がいるんだっけ。」

「なんでそれを...」

どうしてこいつがその話を知ってるのか、歩くことも忘れてカルマの顔を凝視すると奴はニヤリと笑った。

「前に渚君に話してたでしょ?それを聞いただけだよ。」

一体いつの話をしてるんだ。昨日今日の話じゃないその話をしたのは...二年前だ。

「そんなに行きたいんだったら先生にお願いしたら?連れて行ってくれるかもよ。」

「簡単に言わないで何にも知らないくせに...」

「だってそれは奈々緒が何にも話してくれないからでしょ。寂しいんじゃないの?その子に会えなくて。」

「お前に何がわかるっ!!」

カッとなってつい叫んでしまった。まだそんなに校舎から離れてないので先生達にも聞かれただろう。カルマはなんでもないような顔で私を見ている。

「私に関わらないで...!!」

この気持ちを誰かに話せたらどんなに楽なのか、何度もそう思った。でも話せないんだ...話せるわけないんだ。
これが逃げだとわかっているけどそれしか方法が思い浮かばなかった私はその場から走り去る。

一人残された彼が彼女を心配そうに見つめているとは知らずに...