01

それは一つの変化。

一体、今何が起きたのだろう。誰も何も発さない。ただ目の前に起きていることを静かに見ているだけだった。
思いがけないことが立て続けに起きて僕達の思考は止まった。

◆  ◇  ◆

時間は少し遡る。

「渚...まだこっちにいたんだ。みんな帰ってると思った。」

「僕はジュースを買いに来てただけだよ。」

「そうなんだ。私は用事あるから、またね。」

集会が終わった後一人飲み物を買いに行った帰りに沢田さんに会った。沢田さんはそう言って本校舎に行ってしまう。
本校舎に用事って何があるんだろう。そう疑問に思いながらも一人で校舎まで戻るとクラスが何だか騒がしかった。それにある方で人だかりができていた。
気になって行くとそこには見知らぬ女の子が、髪は黒く、肩つくかつかないかぐらいの長さ。その瞳は引き寄せられる様に綺麗な青色で、肌がとても白かった。

「お、渚おかえり。」

「ただいま杉野...あの子は?」

「あー何か俺らが帰ってきたとき教室にいてさ、多分転校生じゃないかな?」

すると杉野は声を潜めた言った。

「ビッチ先生みたいに殺せんせー暗殺するために来たのかもよ?」

このクラスだったらありえるねと杉野と笑う。彼女の話を聞きたくて近づくとちょうど倉橋さんが質問している所だった。

「前はどこの学校に通ってたの?」

「あ、その...事情があって今まで登校してなかっただけでこの学校の生徒です。」

「事情?...あ、ごめんね。いきなり失礼だよね。」

「いいえ、大丈夫ですよ。今まで家庭の都合でイタリアにいて...本当は二年前に帰ってくる予定が結局今になってしまっただけです。」

「へぇ〜今までイタリアにいたんだ〜。」

「はい。五歳の時にイタリアに行ったので...日本に帰るのは十年振り、ですね。」

もじもじと顔を赤らめて、恥ずかしながらも彼女は答えた。
彼女の回答に杉野は暗殺者じゃなさそうだなと肩を落とした。確かに、彼女は暗殺者に見えない。もし彼女が僕達と同い年の暗殺者だったら色んな質問をしていたのかもしれないな。なんて思っていたら彼女はあ!と声を上げると教室の前に走った。

「ナオ!」

「スズ...?」

彼女は親しげに沢田さんに話しかける。それに対し沢田さんは信じられないと言う顔で彼女の名前を呼ぶ。クラス中に激震が走ったのは言うまでもない。

「スズ...」

「はい!スズですよ。藤塚涼花…忘れちゃったんですか?」

藤塚涼花と彼女は名乗った。それが彼女の名前らしい。こてんと首を傾げる藤塚さん。沢田さんはまだ信じられないと放心していた。

「え!ちょっとどうしたんですか?!?!!」

藤塚さんが驚いて声を上げる。僕達も驚いた。沢田さんが泣いたのだ。

彼女は泣いた。大きく見開かれた目から次々と涙が溢れている。

「え?」

頬に手を当てて手に付いた涙をぼーっとした目で見る。自分が泣いている事に気付いてなかったのだろうか...
沢田さんはそれを見つめてハハッと笑い声を漏らした。そして、

「おかえり。」

とても穏やかな顔で彼女は微笑んだ。