02

それは一つの変化。

久し振りだ。僕が沢田さんがあんな顔をしているのを見るのはいつ振りだろうか。カルマ君はわからないけど、きっとみんな初めて見ただろう。

僕達はその日始めて沢田さんに近付けた気がしたんだ。
まだまだ知らないことがいっぱいあるけど、それでも。確かにそう感じた。

とは言うもののその顔はすぐにいつもの仏頂面に戻った。原因は藤塚さんが取り出した封筒。

「そんなに嫌そうな顔をしないでください。」

「わかってるけどさ〜。」

沢田さん封筒を微妙な面持ちで開くと中に入っていた紙をゆっくり開く。

「は?」

うっすらと青筋が浮かんだように見えた。しばらく見つめてああと何かに納得して教室から出ていく。藤塚さんはそれに付いて行き僕達も互いに目配せをして二人の後を追った。

沢田さんは職員室に入った。二人が職員室に入るのを見届けてドア越しにそっと見守る。

「皆さんどうしましたか。」

「殺せんせー、あれ。」

僕達が指差す方を見て殺せんせーは知らない顔だと言った。

「明日から登校する予定だった生徒だ。本人たっての希望で今日に変更されたがな。」

さっき連絡が入ったと遅れてきた烏間先生が言った。

「おやそうでしたか。」

それはそれはと納得する先生。僕達が二人に視線を戻すとちょうど沢田さんが手紙を燃やしているところだった。

「何してるんだ?」

燃えた手紙を慌てて藤塚さんが引ったくって手近にあった花瓶の水をかけた。火が消えた後ハンカチで水を拭き取ったそれを見て彼女は困ったように笑った。
二人は二、三言話して沢田さんがやれやれと肩を竦めたところでビッチ先生が口を開く。あ!と二人は顔を見合せ藤塚さんは自己紹介をしお辞儀した。

「説明はあちらでやりましょうか。」

怪しがるビッチ先生を見兼ねて殺せんせーが間に入った。
すると殺せんせーを見た藤塚さんは怖がって沢田さんの後ろに隠れる。殺せんせーはショックを受けたようだ。怖がられると思ってなかったのだろうか。
沢田さんは背中に隠れた彼女を見て感慨深げに目を細めた。

「安心しなよ。一応ここの教師だから取って喰ったりはしないから。」

「ニュヤ...沢田さんは先生の心を抉るのが上手いですね。」

「ご!ごめんなさい!!その...話には聞いていたんですが、びっくりしちゃって。」

「大丈夫ですよ。私も驚かせてしまいましたから。さあ、行きましょうか。教室で皆さんに挨拶をしに。」

皆さんも教室に戻ってください。その声に従い戻る。

「明日からと言う話だったのにいきなり変えてしまってすみませんでした。」

教室に戻って最初に口を開いたのは藤塚さん。彼女は昨日貰った予定表にこんなことが書いてあって...と先生たちに見せた。

「なるほど。そう言うことでしたか...まあその話は後で、まずは自己紹介をしましょうか。」

どうぞ。とチョークを渡す。彼女は整った綺麗な字で“藤塚 涼花”と書いた。

「藤塚涼花と言います。苗字で呼ばれるのはあまり馴れていないので、できれば名前で呼んで欲しいです。至らない所もあると思いますがよろしくお願いします。」

顔を赤らめて頭を下げる。質問攻めにあっていた時からだが藤塚さん、涼花さんの動作は一つ一つが丁寧で、その佇まいから上品さが滲み出ている。お嬢様みたいと隣で茅野が呟いた。

「では涼花さんの席は...と、どうしましたかカルマ君?」

「せんせー、こっちの席空いてるよ?」

席は沢田さんの隣だろうな。なんて思っていたらカルマ君が手を上げた。彼が指したのは彼と寺坂君の間。

「沢田さんの隣にしようかと思ったんですが...涼花さんはどうですか?」

「えっと...私もナオの隣がいいです。」

するとカルマ君は前まで来ると涼花さんにちょいちょいと指で呼んで教室の角に移動するとこそこそと小声で話し始めた。
二人はしばらく何かを話した後互いに互いの手をがっしりと握る。

「せんせー涼花さん俺の隣に座るんだって。」

「おいバカルマ、スズに何吹き込んだ。」

「別にィ〜俺の隣に来ない?って誘っただけだよ?」

カルマ君の言葉に殺せんせーもではそうしましょうかと意味深な笑みを浮かべる。沢田さんは涼花さんが彼に何か吹き込まれたと思ったらしく──実際そうだろうが──異議あり!と彼を指差す。彼が飄々と答えると嘘つけ!!と叫んだ。

「ね?涼花さん。」

同意を求めるカルマ君にはい!と頷く涼花さん。裏切られると思っていなかった沢田さんはショックを受けたようだった。

こうして涼花さんの席は決まった。クラスの一番後ろの列、廊下側から二番目の席だ。