浮遊感の後に感じるのは大地を走る震動。それは徐々に少なくなりやがてなくなる。しばらく経つとシートベルトの着用サインが消えた。がやがやと人の声が飛び交うなかで一人溜め息を吐く。どうしたんですか?と隣に座るシャオイェンは顔を伺った。
「なんか...ついに来ちゃったなって。」
「嫌だったら断れば良かったのに...それを、あんな理由で...」
「んーああなったら行くしかないからな〜。」
凝り固まった体を解すように伸びをする。滞った血が流れる。
「お嬢、先輩、着いたんですからさっさと荷物取って降りますよ。」
ロイに急かされ荷物を取る。
入国審査を終え空港を出た私は懐かしい日本の空気を肺一杯に吸い込んだ。
「まあやると決めたことはちゃんとやらないとね。」
よし!と気合いを入れる。その後ろでロイが頑張れ〜と他人事のように言ったのでシャオイェンに蹴られた。
「俺達オマケみたいなもんじゃないですか。」
「私達は私達でやることがあるだろうが。」
とっとと行くぞと今度はシャオイェンが急かした。
荷物が多いいので電車は使わずタクシーでの移動に。指定された住所に着くとそこに立派な景観のマンションがある。
「お客さん着きましたよ。」
「大きい...!!」
「まー俺たちが居たところに比べると小さいですけどね。」
運転手の話だとこの辺りはこの地区で一番高い土地でマンションは最近建てられたばかりだと言う。
このマンションの最上階が私に与えられた場所だ。
「俺が言う話じゃないけどたかが中学生に一等地与えるって、金銭感覚狂ってません?」
このマンション自体買い取ったって話らしいですよ。彼は声を潜めて言った。
「それにしてもここは空港からかなり離れているのに詳しいですね。」
「あぁ、最近外国の人を空港からこっちまで乗せる事が多くてね。運転がてら案内できればと思っていろいろ勉強したんだよ。にしても嬢ちゃんもあっちの人やあんちゃんも日本語上手いな。」
「昔日本に住んでいたので。」
「とんだお節介だったかな?」
「いえ、久し振りに日本に帰ると変わってるものが多くて、逆に助かりました。」
「そうかい。」
先に荷物を下ろしに出たシャオイェンがお前も動けとロイを引っ張り出した。
「...荷物出すの手伝わなくて良かったのかな。」
「ええ。私の話し相手になってくれるだけで十分です。お気遣いありがとうございました。」
「ハハッ、良くできたお嬢さんだ。またタクシーに乗ることがあったらどうぞ。ご贔屓に。」
走り去るタクシーに感謝を込めてお辞儀する。細かいですねと言う彼にさっきの話本当なの?と聞いてみた。
「どの話です?」
「このマンション買い取ったって話。」
「マジらしいです。それにほら、人が住んでる感じしないでしょ?」
「言われてみれば、確かに。」
「まーどうせ危ない目に合うんだろうし、これで良かったんじゃないですか。」
大荷物なので手伝おうとしたがロイに全部任せてくださいねと全て奪われる。
「ほらほら部屋の主が先に行かないんでどうしますか。」
促されるままに一歩を踏み出した。
01
少しずつ動き出す。