01

冗談じゃなかった。

中間テストが近付いていると言ってもテスト対策以外の授業はちゃんと入っている。今日はスズが来て初めての体育。
体育着に着替えた彼女は両腕を上げキター!!と叫んだ。

「今日という日をどれだけ待ち侘びたか…楽しみだな〜。」

「良かったね。ほら準備運動するよ。」

「はーい。」

ナイフをぶんぶん振り回す手を止めてスズは答えた。

準備運動を終え烏間先生の話も終わるとまずはナイフの素振り、それが終わったら二人一組の対戦訓練だ。

「ナオちゃん一緒にやろ!」

「もちろん。」

向かい合い構えると周りからの視線を感じる。烏間先生さえも手を止めてこちらを見ていた。

「手加減なしで来てね。」

「はいはい。その前に体鈍ってないでしょうね。」

「何言ってるの?一日たりとも自主訓練をしなかった日はないよ。できなかった日を除いてだけどね。」

「脳筋のあんたらしい話だ。」

「ノウキン?」

「脳ミソまで筋肉でできてるヤツのこと!」

その言葉とともに斬りかかるとスズは軽い身のこなしでそれを躱した。

「なるほど。そういう意味なのか…って、筋肉以外も詰まってるよ!」

一撃、二撃、三撃と鋭い斬撃を繰り出す。柔らかい素材で作られているため受け流しには向かないから避けるが一撃だけ頬を掠め摩擦でじんじんと痛む。

「ふふん。ナオちゃんの方が鈍ってるんじゃないの?」

得意気に笑う彼女に何撃かお返しする。彼女はそれも全て躱してみせた。

「すばしっこいのは相変わらずね。じゃあこれは?」

その後も激しい攻防戦は繰り広げられた。どちらも気後れしない戦いに周りは釘付けにされ一歩も動かない。

五分くらい経っただろうか、またスズが攻め手に回った。繰り出された突き、だがそれがこちらに届く前に彼女の体が傾いた。

「危ない!」

地面すれすれの所で受け止めて横に寝かせるその顔は血の気が失せ真っ青になっていた。

「大丈夫か!!」

一連を見ていた烏間先生が駆け寄る。私は溜め息を吐いた。

「あんたのそういうところ、変わらないね。」

「こんなに、動い、たの久しぶり…ちょっと…暑くなりすぎたか、も…」

「俺がいない間も今まで通り訓練してくれ。」

途切れ途切れに言うスズは烏間先生に抱えられて保健室へと運ばれた。

・ ・ ・

「無理をしないようにと言ったはずだが?」

「す、すみません…ついはしゃぎ過ぎてしまいました。」

「いや、次から気をつけてくれればそれで良い。今日最後の授業だからこのまま早退してゆっくり休んでくれ。」

「はい…」

初めての体育で浮かれすぎてしまった。倒れる少し前から感じていたもやもやとした嫌な感じは横になって少しは楽になったが全快とはほぼ遠い。家に連絡すると言って烏間先生は保健室を出た。それと入れ違いで殺せんせーが入ってくる。

「涼花さん大丈夫ですか?」

「まだちょっとふらふらしますけど大丈夫です。ご心配をお掛けしました…」

「体が弱いと聞いています。暑くなるのも良いことですが無理をし過ぎてはいけませんよ。」

優しく嗜める先生に恥ずかしさや申し訳なさで顔を合わせることができず顔を隠した。すると先生はいい勝負でしたと話した。

「涼花さんも沢田さんもとても良い筋でした。これは先生の暗殺が楽しくなりそうですねぇ。」

「私、昔から体が弱くて…だから知り合いの道場に通ってたんです。ナオは私の妹弟子に当たるんですよ。」

「なるほど。だから沢田さんはあれほど…」

「どういう意味ですか?」

「いえ、初めから沢田さんは皆さんより頭何個分も飛び抜けていましたから。喧嘩とはまた違う何かをやっているのではと思っていたんです。」

「ナオちゃん強いでしょ。」

「えぇ。涼花さんも。」

お迎えが来るまでゆっくり休んでください。その声に私は目を閉じた。