02

不可能ではない。

教室に落胆、怒り、負の感情を含んだ重々しい空気が流れている。殺せんせーは私達に背を向けて静かに烏間先生の電話が終わるのを待っていた。

険しい顔で電話を終える烏間先生。結果はやはりと言ったところか。

「…先生の責任です。この学校の仕組みを甘く見すぎていたようです。…君達に顔向けできません。」

テスト二日前。私達の知らない所でテスト範囲が大幅に変更されていた。クラス全員50位以内。そう言ったのに妨害のせいで結果が出なかったことを気にしてか今回のことが遣るせないのか、先生は私達を見ようともしない。

するとカルマは席を立ち先生にナイフを投げた。

「いいの〜?顔向けできなかったら俺が殺しに来んのも見えないよ。」

そう言ってカルマは殺せんせーに自身の解答用紙を投げ私に目配せした。カルマに目配せされて彼の言わんとしていることが嫌でもわかった。

(マジ?)

「ナオ行ってあげてください。」

「あんたも行くの!」

頑張れ!と他人事のように言うスズと彼女の回答用紙を持って前へ出る。そしてカルマがやったように私も解答用紙を殺せんせーに渡した。

「俺達問題変わっても関係無いし。」

今回のテストの結果。カルマは合計494点で学年5位。私は482点で学年12位。私達は先生がせっかくだからと余計な範囲を教えてくれたお陰であまり影響が出なかったのだ。

「先生が範囲外教えるから取れたんだよ。自分のせいとか言ってるけど先生の教え方でこうなったんだからさ、いい加減機嫌直したら?」

「バッサリ言い過ぎじゃない?」

「別になんでもいいでしょ。」

つんと外方を向くとところでさぁとカルマが肩を組んでくる。

「あれどーいうこと?」

「当然の結果でしょ。」

ひそひそと話しかけてくるカルマの視線の先はスズの回答用紙。そこにはたくさんの丸が咲いていた。バツは見受けられない。当たり前だ。なんせスズの得点は合計500点。どう足掻いても学年1位。間違いなく今回一番の功労者は彼女だ。

私たちの会話を知ってか知らずかスズは惚けた顔をする。

「ほら涼花さんも。」

未だに自分が引っ張り出された訳がわからないという顔をするスズをカルマが促す。スズはやや置いて話した。

「えっと、私今まで基礎知識しかなかったんです。公式を覚えていてもどうしてそうなるのかさっぱりわからなくて、ずっと頭の片隅に放置されたままでした。でも、殺せんせーに教わって一つ一つにちゃんと意味があるってわかって、あまり好きではない勉強を初めて楽しいと思いました。」

休み時間や放課後、スズは時間があれば先生に質問をしていた。天賦の才があったわけではない。彼女の努力が実を結んだのだ。

「この点が取れたのも先生が私がスポンジのように知識を吸収して教えがいがあって楽しいと、細かいところやテスト範囲の先の先まで教えてくれたからです。確かに今回の件は驚きました。正直に言うとちょっとムカッときます。でも私達を見てください。先生の教え方で解けない問題はなかった。先生の教え方はちゃんと通用するんです。」

両手を広げてくるっと回る。その動きにあわせてスカートが翻った。

「次は本校舎のみなさんをあっと言わせましょうよ!!」

スズの言葉には力がある。彼女の放った言葉たちは自然と教室中の顔を上げさせた。その顔は先ほどとは打って変わってどれも明るく自信に満ちている。
彼女の言う通り、差こそあるけれど私達は彼の教えで解けない問題はなかった。

「すっげえ良い演説ありがと涼花さん。殺せんせー…俺はE組出る気無いよ。前のクラス戻るより暗殺の方が全然楽しいし。ね、奈々緒。」

「私は別に暗殺とか地球爆破とかぶっちゃけどうでもいいんだよね。関わりたくないってのが本音だけど…でも私もE組出る気無いよ。こんなに良い先生たちがいるのに、むしろ出る理由ある?」

後ろを向いてスズと視線を合わせた。彼女はにへらと嬉しそうに笑った。

「奈々緒がデレるなんて珍しいね。」

「言ってる意味がわからないな。」

思ったことを言っただけなのになんでそうなるかな。
カルマは肩を竦めて言葉を続けた。

「…で、どーすんのそっちは?全員50位に入んなかったって言い訳つけてここからシッポ巻いて逃げちゃうの?それって結局さぁ、殺されんのが怖いだけなんじゃないの?」

するとみんなは目配せし合い先生にヤジを飛ばした。

「なーんだ殺せんせー怖かったのかぁ。それなら正直に言えば良かったのに。」

「ねー「怖いから逃げたい」って。」

「にゅやーーーッ!!逃げるわけありません。期末テストであいつらに倍返しでリベンジです!!」

みんなにおちょくられて顔を真っ赤にさせる先生。悔しくないんですかと言われても今はそんなこと微塵も思わなかった。