最近クラスが浮き足立っている。テストも終わって一段落ついたばかりなのにみんな固まって楽しそうに話をしていて、なぜだろうと不思議に思ったがしばらくして思い出した。修学旅行だ。京都へ二泊三日。家族へのお土産はどうしようか。自分の知ってる限りでお土産候補を考えているとちょっといい?と片岡さん。
「沢田さん、修学旅行の班は決まった?」
...どうやら一番大切なことを忘れていたようだ。スズがどうするのか聞いてからにするよと答えようとすると視界の隅から伸びた手が肩に置かれる。振り向くと見慣れた赤。馴れ馴れしく肩を抱き寄せてカルマは大丈夫だよと答えた。
「奈々緒は俺達の班だから。」
「そんなこと一言も聞いてないんだけど?」
「だって奈々緒ぐらいじゃない?班決まってないの。」
勝手に決めるなよと口を開く前に机に置かれる一枚の用紙。上部に一班七人までと書かれ区切られた枠の中には書いた覚えのない私の名前が書かれている。肩を竦めて決まってないなら空いてる班に入らなきゃねと続ける彼を横目にもう一度机上のそれに視線を戻す。
「あ、涼花さんはもう別の班に入ってるよ。」
私の思考を見透かしたように彼は言い放ちもう一枚取り出して目の前に掲げる。確かにそこには探そうと思っていた名前があり、それと同時にその枠以外も別の名で埋まっているのでスズと同じ班に入るのは無理だとわかった。
「わざわざ教えに来てくれてありがとう。片岡さん班に変更があるから少し待ってもらってもいい?」
二枚の用紙を見比べてカルマとスズの名前に消しゴムをかけようと引き出しからペンケースを取り出したら横からサッと紙を奪われ舌打ち一つ。
「何すんのよ。」
「いやそれこっちのセリフ。何しようとしてんの。」
「何ってそりゃあ...」
名前の入れ替え。なんで私がスズじゃなくてカルマと同じ班になるのか、その不満は存外に伝わったようで彼ははぁと息を吐いて教室の後ろで原さんと話しているスズを呼んだ。どうしたんですか?と近付くスズは私とカルマ、そしてカルマが持つ紙を順に見て合点がいったのか手を打つ。
「ナオちゃんごめんね。スミレちゃんに誘われたのとまずは席の近い人と仲良くなりたいなって思って勝手に班決めちゃったの。それにナオちゃんから何も聞いてないからてっきりもう班が決まってるものだと思って......」
両手を合わせて謝る親友に修学旅行の存在すら忘れていたとは言えずに口ごもるとここまで静観していた片岡さんがこれで決まりだねとカルマから用紙を回収した。
「そういうわけでよろしくねー奈々緒...そんなあからさまに嫌そうな顔しないでよ。」
つんつんと頬を指す指を逆方向に折り曲げたくなる衝動に駆られる。ただ冷静に考えてみればそっちの方がいい気がしたので大人しくわかったと答えた。
「え、どうしたの?今日はやけに素直だね。」
「私はあんたと同じ班になるのもスズを一人にするのも嫌。だから入れ替えればいいと思ったけど寺坂は問題は起こしても揉め事は起こさなそうだから。」
あんたと違ってねと嫌味たっぷりに言うと目撃者までちゃんと対処するよとカルマ。違うそうじゃない。
「カルマ、今のうちに言っとくけどスズを変なことに巻き込んだら許さないからね。」
「...奈々緒って本ト涼花さんだけ特別視するよね。」
「当たり前でしょ。」
歯牙にも掛けない物言いにカルマはむっとしていたが当たり前なのだ。スズは私の大切な親友であり、命の恩人で......家族と同じくらい、場合によっては家族以上に私が守りたいと思っている存在だ。そう思ってもスズは自分より弱い私に守らせてはくれないだろうけど......。
もっと強くなりたいと何度も思うことがある。私の守りたい者たちが傷つけられる度に何度も...例えば降りかかる火の粉を目の前に飛ぶ小さな虫を払うようにいとも簡単に跳ね除けるような、他者と一線を画す圧倒的な力が私はほしい。今の私にそんな力はないしそんな力があったとしても私の腕は二本しかないからどこかで取り零してしまうのはわかりきっているけれど......それでも私は強くなりたい。...いや強くありたいと願うべきだろうか。自分の弱さを受け入れそれでも理想を貫けるような何者にも揺るがされない芯の強さを持てる自分でありたい。
「後で班で集まる時間があるからそれまでに行きたいところ考えててね。」
物思いにふける私の意識を呼び戻したのはカルマの声と始業を告げるベルの音だった。
投稿日:2018 / 02 / 09
最終更新日:2026 / 10 / 15
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そういえばそんなのあったね。