02

そういえばそんなのあったね。

「あんたカルマになんか言われたでしょ。」

昼になり弁当を開いた涼花に奈々緒は不機嫌な顔で言った。涼花は困ったように笑って奈々緒の口に玉子焼きを入れる。

「物で誤魔化そうとしても無駄だからね。美味しいけど。」

「ごめんねナオちゃん。確かにカルマさんに言われたことはあったけど、席が近い人と仲良くなりたいって言うのは本当だよ。それにスミレちゃんに誘われたから。」

「ああ原さんに…わかってるよ。嘘じゃないくらい。スズは嘘つかないからね。」

自分の弁当を取り出し黙々と食べ始める奈々緒を涼花は複雑な面持ちで見た。

「私だって嘘つくことくらいあるよ。」

「それは人を傷付けないためでしょ。」

涼花は目を見開いた。しばらく奈々緒を見つめるとフフッと笑い声を漏らす。

「やっぱりナオちゃんには敵わないな。」

そう言って奈々緒の弁当箱からおかずを一つ取ると口に含む。うん。美味しい。そう言って涼花は自分の弁当からお返しと返す。

奈々緒と涼花はいつもこうやって少しずつ互いの弁当を交換して食べている。だから奈々緒は涼花の行動に言及することもなく自分も同じように無言でおかずを取って他を返す。
食事中にあまり会話をしないのも二人ならではの風景だ。
最初それを見た生徒は二人の不仲を疑ったがそういう訳ではなかった。

「涼花ちゃんちょっといい?」

「どうぞどうぞ。」

「ありがとう。沢田さんちょっとお邪魔するね。」

「うん。どーぞ。」

原寿美鈴はその二人に割って入るほぼ唯一の存在だ。カルマも昼食中は奈々緒に絡まない。彼女はよく涼花と弁当のおかず交換をしている。

藤塚涼花は大食いである。その細い体のどこに入るのかと言うぐらい食べる。あの奈々緒でさえ引くレベルの食べっぷりだ。いつも男子顔負けの大きな弁当箱いっぱいに食べ物を詰め込んでいる。だから大きくなるのかと、奈々緒は心の中で独り言ちた。どこがとは言わない。

「涼花ちゃんの弁当はいつも彩りが綺麗だね。おかずとかって作り置きしてるの?」

「常備菜としてある程度まとめて作りますね。あと前の日の残り物とか。」

「そうなんだ。沢田さんもいつも弁当だよね。確か自分で作ってるんだっけ、沢田さんはどうしてるの?」

「ん?私はスズみたいにたくさん入れる訳じゃないからその日その日で自分で作ったりかな。あとは冷凍食品とかスズと一緒で残り物を詰めたりしてる。」

「やっぱり残り物は詰めちゃうよね〜。」

原が加わることで二人の会話は自然に増える。奈々緒と仲が良い人は涼花の次に間違いなく原が入るだろう。和気藹々とする三人、原に尊敬の眼差しが送られていることを彼女達は知らない。

「あ、そうだ。修学旅行の班、スズを誘ったの原さんだったんだね。スズのことよろしく。」

「うん。でも良かったのかな。沢田さんと涼花ちゃん別の班になったし…」

「こいつ好奇心強くて目を離すとどっか行くから面倒見るの疲れるんだよね。だから助かる。」

「酷い!その言い方はなしです!!」

「ありだ。昔山で遭難したの誰のせいだと思ってるわけ?」

「そ、それは…」

あの時の話を出すなんてズルいと涼花は頬を膨らませた。

「山で遭難って…二人は一体何してたの?」

「「修行?」」

呆れる原の問いに二人は首を傾げた。

「修行?」

「うん。スミレちゃんにこの前道場に通ってたって話したよね。そこの先生、私達の師匠と山籠りを何回かしたんだ。」

「着のみ着のまま、ナイフ一本で一週間サバイバル生活…」

「寝袋はあるけど火起こしから食糧調達は全て自分達で。」

「昼夜問わず襲い掛かる師匠と罠。」

「「…………………」」

明後日の方を向きどちらともなく止めようかと呟く。
青い顔で視線を合わせない二人にこの話は聞かないでおこうと原は心に決めた。