02

わかってる。

今日から楽しい修学旅行が始まる。楽しみで眠れない...何てことはなかったが昨夜一緒に寝た弟分達に潰されていたのでよく寝付けなかったのかそこそこ寝不足である。

移動中は班ごとに座るのだが同じ班の奥田さんは私のことを恐ろしいと思っているみたいで、少し動いただけで肩をビクつかせてしまう。なのでここは遠慮なく寝させてもらおう。

「ごめん。私は寝るけど気にしないで。」

そう言い残して数分。目を閉じて揺れに身を任せてうとうとしていると止めた方がいいよと渚の声が聞こえ目を開ける。視界に端に映る手を掴み捻り上げるとその手から黒いペンがころがり落ちた。

「何してるの?」

「なんだー起きてたのか。」

ペロッと舌を出すカルマ。こいつ私の顔に落書きしようとしてたな。しかも油性ペンで。イラつきはするがここで相手にしていたらおちおち眠れない、そう考えて席を離れることにした。向かう先はスズの隣。

「そこ座るね。」

「ナオちゃん!そろそろ来ると思ってたんだ。」

スズは笑顔で出迎えてくれる。隣の席が空いていたので向かいに座る原さんと狭間さんにも声を掛けそこに座った。

「朝に眠れなかったって言ってたからきっと移動中に寝るんだろうなって、でもカルマさんのせいでこっちに来ると思ってました。」

「さすが親友。全て当たってるよ。...というか聞いてよ昨日の話。あの子達準備の邪魔しないように隠れててさ、一緒に寝る?って聞いたら笑顔でこっちに来てくれて...みんな寝相が悪いからのしかかられたりで寝不足にはなったけど、でも、朝起きたらみんな私にくっついて寝てたんだよね。めっちゃ可愛かった...!!」

「羨ましい〜いいな〜...私はそういうのないから。」

朝の様子を想像したのかうっとりと頬を染めるスズは少しして寂しそうに呟いた。その頭をぽんぽんと撫でていると狭間さんがあなたそんなに子煩悩だったのと目を丸くして驚いていた。原さんも驚きつつ私の家は大家族なのかと聞く。

「いんや、血の繋がりとかで言うならうちは四人家族よ。父親は海外で仕事してるから家には三人。一昨年まで静かだったんだけど、去年に居候の子が来てから一気に騒がしくなって...弟なんか内心では弟分ができて嬉しいはずなのに文句ばっかり。でもなんだかんだ言いつつ世話をやいてるのよね。」

ちなみに今は父親抜いて八人家族と言えばその多さにまた目を見開く二人。

「弟がいるとは聞いてたけどそんなに多いのね。それにあなたは弟に独裁体制をしくタイプの姉だと思っていたわ。」

気を悪くしたなら謝るわと続ける狭間さんの言葉はかなり的を得ていると思う。私みたいな性格の姉は下の弟妹に横暴を働くタイプだろう。

「弟の教育に必要だと思ったらそういう態度を取るから弟にはそう思われてると思うよ。けど、私にとっては目に入れても痛くないそれはそれは可愛い弟なのよ。それに小さい子って可愛いじゃん。...こいつなんか見てよ。図体だけバカでかくなって可愛いげのない捻くれたやつよりましでしょ。」

雲泥の差だ。後ろの席に座っていた寺坂が顔を出したので指指すと確かにと賛同の声を頂いた。話を聞いていたのかテメェに言われたくないと声を荒らげる寺坂にスズはそうですか?と答えた。

「ナオちゃん昔からすっごく可愛いんだから。」

その言葉にお前頭おかしいんじゃないの?と言う。失礼だな。私だって可愛いげはあったよ...多分。

「ふあぁ〜眠い...そろそろ寝るわ。」

限界が近いのか段々重くなる瞼。欠伸をすると膝使いますか?とスズは真ん中の肘掛けを上げ膝を指す。

「肩でいい。」

さすがにそこまで安眠を取るつもりはないと伝え肘掛けを元に戻す。体勢を変えスズの肩に頭を預けた所で寺坂はハッと鼻で笑った。

「楽しみで眠れなかったのかよ。ガキじゃあるめーし。」

「なるほど。寺坂は楽しみで眠れなかったんだね。ハッ、ガキが。」

「テメェの話だろ!!」

それをお返しするとまた怒鳴る寺坂にスズはその口を抑えるとしーと人差し指を立てた。顔の距離が近くなり赤くなった寺坂は大人しく席に戻る。

席に座り直したスズの肩にもう一度頭を預け瞼を閉じるとすぐに意識が落ちていく。三人の会話が徐々に小さくなりやがて聞こえなくなった。

・ ・ ・

お姉ちゃん。そう呼ばれてハッと顔を上げる。そこには心細さに目を潤ませる可愛い弟がいた。安心させるように握っていた手に力を入れて大丈夫だよと話すとその手をぎゅっと握り返して身を寄せてくる。

そんなにこの道が怖いのかと幼心に思った。確かに、この道の先は弟が苦手とする人が通る度に吠える小さな犬がいる家がある。私も急に吠えられて泣いたことはあるがお使いをこなすためにはこの道を必ず通らなければならず、また吠えてくると言っても門がしっかり閉じられているからこちらが襲われることはない。

それにその犬はただ撫でてほしいだけなのだと姉弟子は言っていた。その言葉の通り手を差し出すと鳴き止み、お座りをしてクリクリとした大きなつぶらな瞳でこちらを見上げてくるのだ。そっと頭を撫でると先程上げていた見た目にそぐわない大きな声ではなく可愛らしい声で鳴き、前足を何度も踏み爪を鳴らす。尻尾は大きく横に振られ全身で喜びを表現して、その姿がとても愛らしいと私は知っていた。

ああ...これは夢だとふと気付く。幼い頃の夢を見ているのだと。夢だと気付けば私の視界は弟の姿だけでなく幼い自分の姿を写す。

小さな後ろ姿だった。今とは違い幼い頃は弟と同じ身長で泣き出しそうな弟をよく姉弟子がやってくれたようにあやしていた。

そう、今まさに幼い自分がやっているように、両の手を取り額を合わせて大丈夫だよと何度も何度も優しく言い聞かせて。

懐かしい夢だ。

ようやく落ち着いた弟を励まし、ゆっくり歩みを進める二人の姿を遠くからずっと眺めていた。

投稿日:2018 / 02 / 09
最終更新日:2026 / 10 / 17