「しばらく休んでください。ご飯、あとで持っていきますね。」
「スズ...ありがとう。」
柔らかい微笑みで答える奈々緒にはい。と頷く涼花。微笑ましい光景だ。けれど洗脳紛いなものをみてしまったことでそこにいた人達はあまり素直に感動できないでいた。
奈々緒がふらふらと歩いていく姿を見送り涼花はやれやれと肩を竦める。
「これで沢田は涼花に接するように俺達にも柔らかくなるってことか?」
すぐ近くで一部始終を見ていた生徒を代表して前原が口を開く。その声に涼花はどうでしょうと首を傾げた。
「ちょっと難しいような............でも大丈夫ですよ。ナオちゃんは弱ってるところを人に見せたがらないから、それを見せるってことはつまり、そう言うことです。」
少し躊躇い何かを考えるようだったがその言葉におおと歓声が上げる。
「涼花さんが来てから沢田さんの印象凄く変わったね。沢田さん、ちゃんと私達と話してくれるし、まだちょっと難しそうだけどこの調子だとすぐ馴染めそう。」
「心配してたので良かったです。この感じだとカルマさん以外はぐいぐい行っても大丈夫そうですよ。」
その声にまた歓声が上がった。
「じゃあ私もちょっと弄りに行こうかな。」
「莉桜さん...お手柔らかにお願いします。」
前からやってみたかったんだよねーとニヤッと笑う彼女に一抹の不安を感じたがまあこれはこれで良いだろうと涼花は頷く。中村はカルマに勝ったと言わんばかりの笑みを向けた。
「涼花さん俺はー?」
「だからカルマさんはまだ駄目です!今回は相対的にカルマさんの株が上がっただけですからね。調子に乗ってると一気に下降しますよ!」
めっ!と嗜める涼花にカルマはちぇーと口を尖らせた。
「それにしても...涼花さんは沢田さんを一人にして良かったんですか?」
普段の彼女とは掛け離れた姿を見てかなり心配していた殺せんせーの問いに涼花は頷いた。
「ナオちゃんも一人になりたいかと。それに、今までずっと一人でどうにかしてたと思いますし...私が下手に口を挟むよりはそっちの方が回復も早いと思います。」
涼花の言葉にそれもそうだと殺せんせーは納得する。人は人それぞれの方法で立ち直るのだからと、後は奈々緒自身でけりをつけるしかないと考えた。
夕食は一人欠けた状態だったがその欠けた本人の話で持ちきりになり場は弾んでいる。班ごとに席に座り思い思いに食べていると涼花の隣に座る原がねえねえと漬け物を箸で掴んで言った。
「殺せんせーにはああ言ってたけど沢田さんを一人にして本当に良かったの?」
「...本音を言ったら凄く心配なんです。大丈夫だと思うんですが...」
涼花が答えると向かいに座る寺坂はよく言うなとお椀の味噌汁を啜って言った。原が漬け物を食べる音が聞こえる。
「洗脳紛いなことしておいてよくそんなこと言えるな。」
「ナオちゃん意地っ張りだからああ言う風に誘導してあげないと駄目なんですよ。」
お番菜を美味しそうに食べ涼花は隣のテーブルに座るカルマを呼ぶ。
「何?」
「カルマさん後でナオちゃんにご飯持っていってくれませんか?」
カルマは驚きつつもその提案を聞き入れた。上機嫌に戻っていく彼、寺坂は涼花に呆れたようだ。
「お前...あんだけ釘刺しておいて行かせるのか。」
「私が行ってもナオちゃんが甘えてしまうだけですから。それにナオちゃんって打たれ強いように見えて豆腐メンタルなんですよ。私も甘やかしちゃうので、この場合はカルマさんが適任なんではないでしょうか?」
「甘やかしてるって自覚はあるんだな。」
「可愛い妹分を甘やかしたいのは全世界共通では?!」
「そうか?」
寺坂には妹が一人いるがその気持ちは今一つ理解できないものだった。