ノックをしても部屋から返事が返ってくることはない。襖を開ければ奈々緒は畳の上でうつ伏せになっていて、ゆっくりと体を起こすして部屋に入った人物を見るなり顔を歪ませた。
「げ、カルマかよ...」
「ご飯持ってきたのにそれはないんじゃない?ほらスマイルスマイルー。」
膳を渡すとありがとうと言って奈々緒は受け取る。それを置いてしばらくしても彼女は手をつけようとしない。
「食べないの?」
「食べるよ。あんたがいなくなったらね。」
「俺、それ下げるのも任されてるんだけど。」
対面に座って二人っきりだね。なんて言えば奈々緒は嫌そうな顔をして食べ始めた。
「...案外元気そうだね。涼花さんが一人にした方が良いって言ったのもわかるかも。でも俺は一人にさせない方がいいんじゃないかって思ってるけどね。」
「スズはわざと私を一人にさせたのよ。ホントならこんな姿スズに見せたくないから...あんたをここに来させたのもそれを考えてなんでしょうね。」
そこで味噌汁を一口飲む。
「...さっき元気そうだって言ったよね。当たり前でしょ。あんなのに何度も会ってたら嫌でも耐性がつく。」
嫌いなことに変わりはないけどね。と言って漬け物を口に含む。ポリポリと咀嚼する音が響いた。カルマは食べてる奈々緒も可愛いなーなんて眺めてたらじろりと睨まれた。
「じろじろ見ないでくれる?」
「じゃあ何か話してよ。」
口の中のものを嚥下してから奈々緒は首と呟いた。
「首、大丈夫なの?」
不良に殴られたでしょ。と言葉が続く。
「ん?うん。ちょっと腫れてるけど問題ないよ。殺せんせーに見てもらったけどそっちも問題ないって。」
そうと淡白に返すがその顔は安堵していた。心配してくれたんだと聞けば違うと否定された。
「あんた一人に任せなければこんなことにならなかったなって思ってるだけ。」
「今日は不意打ち喰らったけど次はないよ。」
「どうだか。」
「今度はちゃんと奈々緒を守ってみせるよ。」
「私より弱いあんたに守られるつもりはない。」
「確かに俺は奈々緒より弱いけどこれからどうなるかわからないでしょ?」
どうだろうねと彼女は言う。
「また人を嘗めて足下掬われる未来しか見えないけど。」
奈々緒はそこまで言うと食事に集中する。二人の空間には静かだが穏やかで心地の良い空気が流れていた。
「ねえ。あんたはスズのことどう思う?」
奈々緒はそこそこ食べ物がなくなってからまた口を開いた。
「涼花さん?...天然でぽやぽやしてるお嬢様って思ってたけど結構強かだよね。あと...これ言っても怒らない?」
「怒らない。怒らないから言えば?」
「...涼花さん腹の内が読めないと言うか...まあうん。腹黒だよね。絶対。あと怒ったらめっちゃ怖そう。」
「奇遇ね。私もスズのことそう思ってる。あいつ怒らせてみなよ。一生消えないトラウマになるから。」
「それは遠慮しておくよ。」
青い顔して言うものだから何があったのか気になったが聞かないでおくと部屋にまた沈黙が落ちる。
01
素直じゃないんです。