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お知らせがあります。

転校生が来ると言う知らせに浮き足立っている人もいるようだが正直私はそこまで喜ばしいと思えなかった。
理由の一つがここが椚ヶ丘中の三年E組だから。相当な理由じゃなければ山の上の校舎に来る転校生などいない。そしてもう一つが烏間先生からのメール。多少の外見で驚くかもしれないが騒がないで接して欲しい。そんな感じの文面だった。この教室の現状を鑑みて転校生が一般人であるはずがなく、暗殺者と断定できる。

ここで今までを振り返ってみよう。暗殺者に一般常識を持った真っ当な人間がいただろうか?答えは否。リボーン君といいビアンキやシャマル、そしてその他の暗殺者の方々も。良い意味でも悪い意味でも一癖も二癖もありすぎる人達だった。

つまり今回もそうなんだろと高を括っていた。それが人工知能を搭載した機械であると知り少し興味を持ったがやはり、その予想通り転校生はぶっ飛んでいた。

足元に散らばるBB弾。それは全て転校生がやったもの。授業中にあれだけ撃っておきながら片付けもせずだんまりを決め込んでいる。授業を終える毎にクラスで転校生に対するヘイトが溜まってきているのが手に取るようにわかる。そう言う私ももちろん。彼女をどうにかしたいと考えている。

「さすがにこのままと言う訳には行きませんよね…」

手を頬に当てやれやれとあいつは溜め息を吐いた。
これが毎日続くようなら早いうちに手は打つべきだ。そう考える私達に先手を打ったのは寺坂だった。

翌日登校すると転校生はガムテープで拘束されている。どう考えても邪魔だろとガムテープを指で回す彼によくやったと思うのは仕方ない。私と同様にクラスの鼻摘まみ者である彼は思ったことはすぐやる行動派だ。少し見直した。

でもこれは一時凌ぎでしかないから次はどうするかと考える私に対し、さらに翌日。良い意味で度肝を抜かれた。

転校生が間違った方向に進化していた。協調性を説いた先生による改造で体積二倍、いろいろな追加機能を備えて彼女はクラスに溶け込もうとした。

「奈々緒はどう思う?」

「さあ…でもやっぱり彼女自身の意思に見えるけどプログラムでそうされてるだけだから…これからどうなるかは開発者次第でしょ、どうせ。」

「俺もそう思う。」

はいと〇ッキーを渡されたので貰う。カルマはどこから聞いたのか──と言っても出所は一つしかないが──私が甘い物好きだと知ってからお菓子をくれるようになった。悪意がないので遠慮なく貰っている。うん、美味しい。

「それよりあれ止めなくていいの?」

渚が指すのは液晶画面にタッチパネル機能があると知ってから授業が終わる度につつきに行くあいつ。
もうそろそろ休み時間が終わるので回収に向かう。首根っこを掴めばまだ時間あるよと抗議してくるがその間に授業開始五分前の鐘が鳴る。

「むーナオが止めなかったらもう少しあ…触れ合えたのに…」

「遊べたのにって言いかけたな?あんた、いいの?このままで。あんたの行動があいつの評判落とすことになるんだよ?」

「な、なりませんよ!!私がさせません!!え?まさか言うんですか?言っちゃうんですか??ダメですよ。報告しちゃダメです!!」

「報告されたくなかったら行動を慎め。」

「ぶーナオのいけず…」

「もう一遍言ってみろ。」

なんのことでしょうと目を逸らす彼女に莉桜は笑った。

「ナオちゃんナオちゃん。あいつって誰のこと?」

「ん?誰って「私のお兄様のことです!!!」…」

慌てた様子で彼女は遮った。

「私の大好きな自慢のお兄様のことです!ね、ナオちゃん?!」

「…何度も会ったことあるしお互い番号も交換したしね。こいつが何かやらかしたら…しそうになったらすぐ電話しろって言われてるんだ。」

挙動不審な彼女を莉桜は少し訝しんだが授業開始の鐘が鳴ったので追及は免れた。

授業が終わるとあいつは私を人気のない場所まで引っ張ると何言おうとしてるんですかと憤慨した。

「馬鹿。ホントのこと言うと思う?ちゃんとぼかすに決まってるでしょ。」

教室から私達を呼ぶ声がするので彼女の手を取り歩く。後ろを静かに着いて来て教室に入る前に絶対話しちゃダメですよと言う。彼女の頭をぽんぽんと触ると子供扱いしないでくださいと怒った。それを無視して先に入ると彼女もすんなり入ってくる。どうやら報告される恐怖より転校生への好奇心の方が勝ったようだ。