01

落ち着け。

6月に入り梅雨の季節がやってきた。降ったり止んだり、
強まったり弱まったりする雨足に早く梅雨が明けないかと思うこともしばしば。
そんな季節でも私達の日常は変わらない。学校へ行き、授業を受け、それが全て終わったら放課後。
鞄に荷物を仕舞い2つ隣の席を見れば待ってましたとスズは立ち上がる。2人で玄関に向かい、靴を履き替えていればカルマがやって来た。

「奈々緒、俺とも一緒に帰ろうよ。」

「渚と帰れば?」

「渚君は昨日の件で居残りだって。」

「終わるまで待てばいいじゃん。」

素っ気ない返事にカルマはポリポリと頬を掻いた。

「あの…渚さん達が何かやったんですか?」

首を傾げるスズにカルマはああと口を開いた。

「涼花さんは3限目から授業受けてたから朝の知らないんだっけ?」

あれは凄かったよね〜と同意を求められる。その時然り気無く肩に回されたのでその手を払えばちぇっとつまらなそうな顔をした。

「あんた最近馴れ馴れしいのよ。」

「いいじゃん、いいじゃん、これぐらい。」

「良くない!」

「まあまあ。そのくらいで…」

べたべた触られるのが嫌でそう言えば途端にスズが私達の間に入った。

「それで、渚さん達は何を…?」

「ん〜それが今日遅刻するかしないかギリギリの時間に着いたから、渚達が烏間先生に怒られてた。って位のことしかわからないんだよね。」

実を言えば私もよくわかっていない。そう言えばじゃあ俺が説明してあげるよと上機嫌にカルマは言う。

「立ち話も良いですけど、ちょうど雨も止んでいるので歩きながらにしませんか?」

「そうだね。一緒に帰ろっか。」

「え〜。」

渋い顔をすればスズは可笑しそうにクスクスと笑う。彼女に手を引かれる形で外に出れば確かに、ちょうど雲の切れ間に入っていたからか雨は止んでいた。

・ ・ ・

「他クラスのやつに市販より強い下剤盛ったって…なにしてんのよ。」

「体質によっては大事になっていたかも知れないのに…それを先生が率先して指揮するなんて…」

泥濘んだ山道を下る途中、カルマの話を聞き終えた私達はそれぞれ感想を述べる。馬鹿馬鹿しいと鼻で笑う私とは違い、スズは眉間にシワを寄せ怒ったような表情を浮かべた。

「まあそんなことが昨日あったらしくて、それが今朝発覚して今に至る訳。仕返しするんだったら俺も呼んでくれれば良かったのに。」

「駄目です!!」

それはカルマらしい何気なく発せられた言葉だ。でもそれを聞いた途端、スズは肩を震わせて叫んだ。

「感情のままに動くことほど愚かなことはありません。それが、例えどれだけ憎い相手であっても、絶対にやってはいけないことです!!」

手は力を込めすぎて白くなり、目をぎゅっと閉じ叫ぶスズに、私は手刀を落とした。

「っ〜〜〜!!」

「熱くなりすぎ。本ト、スズは馬鹿真面目なんだから。このくらい、鼻で笑うくらいで良いんだよ。ま、あんたの意見は尤もだけどね。」

涙目で恨みがましい顔は私の言葉で耳まで赤く染まり、そのままサッと背中に隠れてしまった。

「じゃあねカルマ。説明あんがと。」

「え?あーうん。…って、なんで俺だけ別で帰るみたいになってるの?」

「あんたがこんな空気にしたんでしょ。」

「まあそうだけど…」

このままカルマと別れて帰れると思ったのに、カルマはおかしいことに気付き引き留める。乗っておけば良かったのにと舌打ちをしそうになるが、白けてしまった空気を責めれば気不味そうに視線を逸らした。
だがスズが横から赤いままの顔を出し、

「私のことは気にしないでください。うぅ…一人だけ熱くなって恥ずかしい…」

と言って走り去ってしまった。
山道に取り残され、気不味い空気のまま二人で立っているとカルマがじゃあ気を取り直して帰る?とまた肩に手を回そうとしたので、遠慮なく叩き落としてスズの後を追った。