03

落ち着け。

校門まで走れば女子の集団の向こうに頭一つ以上飛び向けた知り合いの姿はすぐに見つかった。
揉みくちゃにされているんだろうと急いだのに、その予想に反して無事で、そのすぐ隣にスズの姿。女子の集団は2人と少し距離をおき2人の様子を観察しているようだった。

「急いでみたけど無事そうじゃない。」

「奈々緒先輩〜!!!!」

声を掛ければパッと振り向き抱きついてくる。少しよれているが黒の学ランを模範的にきちっと着た姿。私の後輩の桃園充ももぞの みつるだ。

「さっき涼花先輩に助けてもらったんです。涼花先輩がいなかったらどうなっていたか…」

そう言ってぎゅっと力を強める。落ち着かせようと背中をポンポンと優しく叩いてあげるとようやくそれは解かれた。

「お疲れ様。でもこうなるってわかってたでしょ?大人しく待ってれば良かったのに…」

桃園充は、桃はとても整った顔をして美人だ。すらっと高い背に、細く見えるがこう見えて結構がっしりとした体付きをしている。だが線が細く頼りなく見えるその容姿に、母性本能を擽られた女性に囲まれることがしばしば。

「だって…もしかしたらここにも素敵な御姉様がいるかもって…」

そして年上が好きだ。

「でもここ、駄目そうですね。噂通り性格悪そうな人しかいません。心の清らかな御姉様に囲まれるのは悪くないんですが…ここは地獄でした。涼花先輩、助けてくださって本当に、本当にありがとうございました!!」

「大袈裟だよ桃君。」

勢いよく、直角に礼をする桃にスズは照れて笑った。
ちなみにさっきまでいた集団は私を見て蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

「あんたまた理想の御姉様探ししてたの?」

「はい!でもやっぱり奈々緒先輩以外に素敵な御姉様はいません!!」

「ああそう。」

また抱きついて大好きです〜と頭をグリグリと擦り寄せてくる。

「はぁ、仕方ないな。…私もあんたが好きよ。信頼してるし、桃が一番便りになる。ま、スズを除いて、だけどね。」

あまり率直な思いを言うのに慣れていないから恥ずかしい。顔を赤くしながら言えば桃は破顔した。

「あ、そうだ。ここに来たのも急いで片付けなきゃいけないことができたからでした。急がないと咬み殺されてしまいます!急ぎますよ先輩!!」

「は?馬鹿!そんな大事なことなんでさっさと言わないの!!」

桃に手を引かれるまま走り出す。後ろからスズのいってらっしゃ〜いと和やかな声が聞こえた。

◆  ◇  ◆

彼は全て見ていた。人と触れ合うことが嫌いな彼女が見知らぬ男と抱き合う姿を、彼を好きだ。信頼している。そして一番便りにしていると言ったのを、そしてその言葉を聞き彼がこちらに勝ち誇ったような笑みを浮かべたのを。
男に手を引かれ走る彼女の顔は赤い。その顔を見て、いや彼女の電話の相手が男とわかった時からもうすでに、彼の中で何かが切れていた。

のんびりと去っていく二人に手を振る少女の肩を掴む。はっと後ろを振り向いた少女は彼の顔を見て冷や汗を浮かべた。

「涼花さん…今のどういうことか説明できる?」

「ええっと、顔が恐いですよ?カルマさん。」

少女は二人の後を追わないことを後悔した。彼がいることを知ってはいたがここまで怒るとは思っていなかったのだ。
でもあの子は…そう説明してもきっと彼は信じないだろう。だから親友に怒られることを覚悟して口を開いた。

「カルマさん…良かったら並盛を案内しましょうか?ナオがどこに行ったのか見当もついてます。ナオのこと、もっと知りたくないですか?」

その言葉に彼は怪訝そうな表情を浮かべた。

「これもいい機会です。ナオが並盛でどんな存在であるのか知るチャンスです。」

「「ちょっと待った!!」」

さあ行きますよと彼を連れていこうとすると前を塞ぐ二人の人物。

「なんか面白そうじゃない。私も案内してよ。」

「ナオちゃんの秘密を知るチャンスじゃん。」

溢れんばかりの好奇心を隠す様子もなく、不破優月と中村莉桜は不敵な笑みを浮かべた。