02

いろいろ特殊。

自動ドアが開くとドアベルのカランコロンと小気味の良い音が響く。それと同時にレジに立っていた少女がいらっしゃいませーと言った。
真ん中に置かれたショーウィンドウには色とりどりのケーキが並んでいて、店内には商品をすぐ食べれる様に簡単な飲食スペースが設けられているようだ。その中で接客をしているのは細長の目が少し上に吊り上がり、肩ぐらいの長さがある黒髪を耳の下辺りで二つに結んだ、中村や不破と同い年ぐらいの少女だ。

「ご注文はお決りでしょうか?」

「ここ初めてなんだけど何かおすすめとかってある?」

「そうですね…売れ筋としてはミルフィーユとシュークリームです。あとシンプルですがショートケーキもおすすめですね。」

「じゃあそれ1個ずつ!」

「店内で召し上がりますか?」

「お持ち帰りで。」

「かしこまりましたー。」

慣れた手付きでショーケースのケーキをトレーに乗せ、注文に齟齬がないか確認する少女に中村はところでさーと声を掛けた。

「沢田ナオちゃんって知ってる?」

「もちろん知ってますよー。並盛で知らない人はいない有名人です。」

にこやかに笑い答える少女に今度は不破が話す。

「その沢田ナオちゃんなんだけど、今どこにいるかわかる?」

「そうですね…だいたいの場所はわかると思いますよ。ところでお2人は…」

「「ナオちゃんの友達でーす!」」

声を揃えた2人に返ってくるのはトレーが落ち、跳ね返る音だった。少女はわなわなと震え落とした物に目もくれず、奥の空間へ大声で叫んだ。

「に、にーにっ、にーに大変!!ナオちゃんの友達が来た!!」

すると奥から何かが盛大に落ちる音が聞こえ、1人の少年が顔を出した。

「ナオちゃんの友達?!」

少女より少し背が高く、少女と顔立ちがよく似ている少年。
髪の毛や頬、身につけているエプロンは小麦粉で白くなっていた。

・ ・ ・

「兄の佐藤伊織と、」

「妹の佐藤詩織!」

「「双子だよ(ね)、よろしく。」」

「私とナオの幼馴染みです。」

互いに手を合わせぴったりと息の合った紹介をする2人は挨拶が決まりイェーイとハイタッチをした。

「それで、スズ姉達はナオちゃんがどこにいるのか知りたいんだっけ?」

「ナオじゃなくて桃君について知りたいかな。」

「あー桃君ね。もちろん知ってるよ。桃君は並中の生徒会長…正確には生徒会長代理をやってるんだ。真面目な良い子だよ。」

「まあナオちゃん大好き過ぎてよく暴走するんだけどね。」

レジの隣にある席に座る。詩織は人数分の紅茶を淹れてから席についた。

「ナオちゃんは小1で生徒会長になったんだ。雲雀君のストッパーとして。」

「その翌年桃君が入学したんだよね。最初は仲悪かったな〜おもに桃君がナオちゃんを敵視して。」

「その後しばらくしてナオちゃんに懐いたんだよね。」

「そうそう。それで副会長になって、今は並中にいないナオちゃんの代理をしてるの。」

テンポ良く話す2人にさすが双子だと涼花は感心した。
カルマ達が奈々緒が生徒会長だったことに驚きを隠せず、それを見た双子は言葉を続ける。

「並盛って結構特殊な地域なんだ。普通の地域って議員さんが行政を担当してるけど、並盛は並盛御三家がそういうの牛耳ってるかな。」

「並盛御三家というか正確には雲雀君の家だね。行政以外も牛耳ってるよ。」

「並盛御三家?」

「並盛に昔からある三つの名家の総称です。雲雀家が他の二家と一線を画しているので名ばかりの存在なんですけどね。」

「御三家ってことは涼花さんの家も入ってる?」

聞き慣れない言葉に不破が問い返せば涼花がそれに答えた。カルマはもしかしたらと口に出せば涼花は苦笑混じりに言う。

「えぇ…まあ入ってますよ。当主が代わってから一気に落ちぶれてしまいましたが…」

「雲雀、藤塚、丹生屋にうのや。この三家が並盛御三家だね。丹生屋家は最近ホテル経営が当たって力を付けてきてるかな。」

伊織の言葉に不破は首を傾げた。丹生屋、どこかで聞いたことがある名だ。記憶を手繰り、そして大声を上げた。