03

いろいろ特殊。

丹生屋杏里にうのや あんり!!」

「一人娘の名前がそんな名前だと聞き及んだことがあるような…優月さんよくご存じでしたね。」

「そっか、スズ姉は知らないんだっけ。杏里ちゃんはナオちゃんを追っ掛けて椚ヶ丘に行ったんだよ。」

伊織の言葉にへぇと相槌を打つ。不破は携帯の画像フォルダを遡り一枚の写真を双子に見せた。
それは涼花にはどこだかわからなかったが椚ヶ丘中の図書館内で撮られたものだ。奈々緒と一緒に黒髪長髪姫カットのキツそうな顔をした少女が写っていた。

「「うん。この子が杏里ちゃんだよ(ね)。」」

「丹生屋杏里…2年の学年トップ。テスト期間にたまに奈々緒ちゃんと図書館で勉強している姿が目撃されてるの。気位が高くて奈々緒ちゃんと違う意味で目立ってる子だよ。」

不破の説明に双子は苦笑した。

「杏里ちゃんナオちゃんと一緒で意地っ張りだから。本当は良い子なんだけどね。杏里ちゃんもナオちゃん大好きで暴走気味かな。桃君とタッグを組むと凄いんだ、これが。」

「それをいつもナオちゃんが止めるんだよね。ナオちゃんって生徒会長だったからってのもあるけど問題児の手綱係で…雲雀君といい、了平君といい、先生達の手に負えない子ばかり相手にさせられて苦労人だね〜。」

しみじみと語る2人。涼花は昔から変わらない親友の立ち位置に複雑な面持ちだ。話が逸れたねと伊織は笑った。

「並盛は特殊な地域って話したよね。ここには風紀委員会って組織があって並盛の秩序を守るのがお仕事なんだ。」

「そしてその風紀委員会の委員長が雲雀君。不良のトップで並盛の恐怖の象徴。ナオちゃんはよく雲雀君のお手伝いをしてるんだ。」

「スズ姉から聞いたけど、ナオちゃんの喧嘩の噂、ほとんどがこれのせいだよ。」

「並盛の風紀を守るのが委員長のお仕事。おイタをする不良を力で黙らせるのもその一つ。ちょっと強引な感じがするけどみんな助かってるし、独裁ってわけじゃないから容認されてるんだよね。」

ところで時間は大丈夫?と双子は首を傾げた。
時計を確認するとちょうどいい時間だ。涼花は立上がり礼を言った後、詩織に奈々緒の家に持っていくケーキを注文した。

「スズ姉これも持っていってくれないかな?僕が作ったケーキなんだけど…次の新作予定だよ。まあ試作会で通ったらだけど…」

それは不格好なケーキだった。生地の周りを覆うクリームはでこぼこで、トッピングも不揃い。伊織は恥ずかしそうに笑った。

「これ全部僕が作ったんだよ。ナオちゃんに渡してほしいな。」

「これを伊織君が?腕はもう大丈夫なの?」

「うーん…まだまだかな?でも昔よりは全然動かせるようになったし、それにちゃんと完治するって先生が言ってた。」

「そうなんだ…うん。ナオにその事も伝えておくね。」

「お願いします。」

涼花達と共に双子も外に出る。詩織は涼花に商品を渡した。

「ナオちゃんって人付き合いが苦手だから友達とか全然できないんだよ。椚ヶ丘に行くって言われた時はすっごく心配したけど大丈夫そうで安心した。」

「ナオちゃん昔っからいろいろあって大変なの。ナオちゃんの友達になってくれてありがとう。またこっち来たらお店に寄ってね。サービスしちゃうから。」

あ、そうだ。双子は声を揃えた。

「「いつか良い報告が聞けるの楽しみにしてるよ(ね)。」」

同時に腕を上げサムズアップ。2人はカルマに向かって笑顔で言った。そんな2人に、というよりは伊織に中村と不破は左右から脇を小突いた。

「とか言って内心では嫉妬してませんか〜?」

「私達的には三角関係もおいしい展開なんだけどね。」

「え?僕?そんなんじゃないよ〜。ナオちゃんとは只の幼馴染みだよ。」

「あ!でもナオちゃんにこの人を近付けさせないでね。」

朗らかな笑顔で否定する伊織。詩織は要注意人物!と写真を見せた。

「ああ…野分君ですか。」

「がどうかしたの?」

「「「見つけたら蹴って良し。」」」

察したと遠い目をする涼花に中村が聞くと涼花と双子はそれはもう良い笑顔で言い放った。