01

これが日常。

双子と別れたカルマ達は涼花の案内で町外れの廃工場についた。涼花は周りを警戒してカルマ達を手招きする。それに着いていき奥に進むと開けた場所があった。

「もう終わってるよねやっぱり。あ、ここであったことは口外厳禁でお願いします。」

物陰からこっそりと顔を出し広場を伺う涼花。カルマ達も同じように顔だけを出し、息を呑んだ。

呻き声を上げる者、ただ地に伏しているだけの者、柄の悪い男達が無数に倒れて広場は死屍累々としていた。その中から不穏な音が聞こえるので見てみれば彼らが知っている人物が一人の男と対峙している。

「あーあ…ナオちゃんと恭ちゃんったらまたやってるよ。」

奈々緒は椚ヶ丘の制服ではなく黒のセーラーに身を包み木刀を持っていた。もう片方の男は彼女と共に去っていった者と同じ黒の学ランを着け、手には鈍い銀色に光る棒のような何かを持っている。
両者は睨み合い、どちらかが動くともう一人も動く。互いに手にある得物を交錯させ何撃か打ち合うと共に引き、またしばらく睨み合っては動く。それを何度も繰り返していた。
打ち合う時間は時に長く、時に短く。
しばらく見ていると、どちらかが動くのではなくいつも先制をするのは学ランの男の方であることに気付く。そして引くのは奈々緒であり、押され気味であることがわかった。

「ナオちゃんと闘ってるのが私の従弟の恭ちゃん!…正確には従妹の従弟ですね。雲雀恭弥って言って私の弟弟子でナオちゃんの兄弟子なんです。二人は昔から仲が悪くって、よくこうやって喧嘩しちゃうんですよ…同族嫌悪ってやつでしょうか?」

「あの学ラン君って奈々緒に怪我させた…」

「そろそろ止めに入らないと...もう充分だろうし、ちょっと行ってくるのでここから出ないでくださいね。」

まるで近くのコンビニに行くような感覚で涼花は出ていくと二人の間に入った。ちょうど動き始めた後だったので互いの武器が涼花に当たりそうになる。二人はすんでのところで左右に逸れた。

「っバカ!怪我したらどうすんのよ!!」

「君…馬鹿なの?」

「二人共元気ですね。」

涼花は左右からの文句を受け流しほくほくとしていた。

「相変わらず息が合うのか合わないのか。」

「話を聞きなさいよ。」

「今日はここまでだよ。」

ね?と圧力たっぷりの笑みに顔を逸らす二人は武器を下ろし涼花の元へ。

「何しに来たのよ?」

「え?風紀委員会のお仕事見学?」

「体調は大丈夫かい?」

「うん。最近熱も出したことないの。ストレスがないからかな?」

「そう…ならいいよ。沢田奈々緒。」

「何?」

「さっきの話、一日だけだったらいいよ。」

「…そう。ありがとね。」

彼の言葉に奈々緒は微かに微笑んだ。

「僕はもう行くよ。」

雲雀が踵を返そうとしたその時、クシュンとくしゃみをする音。雲雀は引き返すと涼花に学ランを被せ、ボタンを閉める。涼花はありがとうと言ってまたくしゃみをした。

「はぁ…体を冷やしたのね。シャオイェンさんに電話してあげるから家で風呂入っていきなさい。」

一度出始めたくしゃみは止まらなくなったようで、何度もくしゃみをし鼻水が出る彼女の鼻に奈々緒はハンカチを当てた。

「ほらちーんてして。」

「ごめんね…洗って返すよ。」

「いいよこれくらい。どうせ後で洗濯に出すんだし。」

くしゃみの度に肩を震わせる彼女の頭に手を置き、気をつけるんだよと言い残して雲雀は去った。すこしすると彼が行ってしまった方角から桃園がやって来た。

「奈々緒せんぱーい!お疲れ様でーす。」

「うん。桃、私はスズを連れていくから後お願いしていい?」

「任されました!!」

荷物があっちにあると言う涼花の言葉に奈々緒は着いていく。

「あ!今の内に謝っておくね。不可抗力だったんだ、ごめんね。」

途中で立ち止まり鼻を啜りながら放たれた言葉を不思議に思う奈々緒は、物陰に隠れた同級生の姿を見つけ言葉を失った。