04

初めての。

「ノックもせず不躾に申し訳ございません。声が聞こえたので…奈々緒様以外の方は会うのは二回目、ですね。若輩者ですがお嬢様の世話役をさせて頂いております。李曉燕リ シャオイェンと言う者です。差し出がましいですがお嬢様の身に何かありましたらこちらに連絡して下さいませ。」

名刺を手渡しながらそちらは赤羽様、中村様、不破様でよろしいでしょうか?と聞かれ三人は口籠りながらも肯定した。

「ええっと…シャオイェンさん。その、今のはどういう…」

「言葉の通りで御座います。なんでもお嬢様のお母様は生まれつき体が弱く、お嬢様をご出産の際に亡くなられたとか。そして赤ん坊であったお嬢様を引き取ったのが兄夫婦、そちらのお写真の方々です。」

多分優月はスズの言葉だけでなく、写真を見て気付いたのだろう。

写真の中で微笑む銀髪の男性。その目は髪色と同じ色だ。対してスズの目は深い青。スズの祖父母からの遺伝か、先祖返りだったら説明はつくのだろうが、それでもスズは両親のどちらにも似ていない。反してスズの妹は母親、そしてその片割れである雲雀の母親と雲雀によく似ていて、母親同士の、そして親子の繋がりが確かに感じられる。

やっぱり似てないよなと写真を優しく撫でた。昔からおかしいと思うことはあったのだ。蔑ろにされていたわけではない、スズの養母は自分の子どもと分け隔てなく育てていたし、血の繋がった自分の子よりもスズを大切にしていた。でもそこには絶対に壊せない壁があって、スズの家で感じた、スズだけが浮わついているように感じるあの謎の感覚も、今はそれが原因だったとわかる。祖母からの迫害も、蓋を開けてみれば全てはこれが原因だったと、それを聞いたのはスズが帰ってきてからだった。

「涼花ちゃんのお父さんは?」

「単身で…離れていたのでお嬢様のお母様が亡くなったことも、そもそも子どもがいること自体知らされていなかったそうです。お嬢様が私共の上司に引き取られ、会って初めて知ったと言っておりました。」

「引き取られって…」

静かに話を聞いていた莉桜とカルマも、彼女の言葉に苦し気な表情を浮かべた。

「っ…今のは失言でした。忘れていただきたいのですが…無理で御座いますよね…お嬢様の養父母は、そして妹君は亡くなりました。」

アルバムを見ても?と聞かれたので渡すと最後の日の写真にそっと手を置いた。

「初めて私が会う前のお嬢様の写真を見ました。お嬢様は昔と何も変わっていないのですね。変わってしまわれたと思っていたのに…良かった。」

その目は優しい、とても優しい目だった。柔らかく、写真の先を、スズを慈しむ細められた目。その目にスズが会ったのがこの人達で良かったと思えた。

「こんなこと話して良かったんですか?」

「良いんじゃない?私も最初聞いた時はビックリしたけど、あいつそれで良かったんだって言ってた。不謹慎だけどそれで兄と会えたってね。」

「お嬢様らしいですね。」

優月の疑問に私が答えるとシャオイェンさんはクスッと笑う。

「すみません。こんな空気にしてしまって、本当は別の用で来たのに…」

「何かって、ああこれですか?」

脱衣場で渡された物をポケットから出して渡すとシャオイェンさんはそれですと言って受け取った。

「ペンダント?」

「昔、お嬢様が友人から頂いたものです。」

細い銀の鎖にレジンで固められた四つ葉のペンダントトップがぶら下がっている。失くしたくない大事な物だから預かって欲しいと渡された物だ。

「あともう一つ、実はイタリアにいる私の元上司からお嬢様宛に洋服が届きまして、その方が折角だから私達以外からも感想が聞きたいと、何分お嬢様の服を作るのは久方振りなので気になって仕方がないと。」

「「ぜひ見せてください!!」」

さっきまでのしんみりとした空気が嘘のように、しおらしかった態度がいつものに戻り、早く行こうと私達を先導する。
それを見て良かったと、気付けば安堵している私がいた。変に気を使われるよりこうしてくれた方が気が幾分以上も楽になる。

「奈々緒は行かないの?」

「…行くよ。」

日本で撮った写真は残っていないと言っていた。だったらこれも持って行こう。スズの写っているアルバムだけを持って彼らの後を追った。