どれだけ泳いだか分からない。どこまで泳いだのかも分からない。
ただ深く、遠くへ逃げ続けていたら幸運にもあの島へとたどり着く事が出来た。これが運命力と言うのなら、私はそれに感謝してもしきれないだろう。
「っは、はあっ!…はあ…はあ〜……。」
後ろを見てもDIOらしき影は無い。目の前には驚いた顔をした皆が居た。
「お、おい!どうしたんだ名前ッ!お前、昨日は何処に…いや、それもだが一体何があったんだ!」
矢継ぎ早に質問をするポルナレフに私はじわりと視界が滲む。
今にも倒れそうな足を踏ん張って皆にごめん、と笑う。
「で、何があったんだ。」
ふらついている私を片手でささえた承太郎はポルナレフと同じ質問を繰り返した。
「ちょっと、ちょっとだけ待って、息をっ整えさせて!」
承太郎に凭れ掛かって荒んでいた息を整える。
その間にアヴドゥルさんが軽く自分たちの状況を報告してくれた。
なんでも、ポルナレフが刺客に襲われたらしいがなんとなかった。その後に私が居ないのに気がついて一晩かけてみんなで探しまわってくれたそうだ。
私のせいで大切な一日を無駄にしてしまったのかと思うと心苦しい。
「…まってください、一晩?」
私があんなにも距離をとって泳いでいたのも全て一晩の出来事なのか。
もっともっと長い間DIOに追いかけられているような感覚でいたからとても気が疲れていたのに、あれが一晩の出来事だと言うのか。
「私はDIOの刺客にこの島で拉致をされて、DIOに出会ってきました。なんとか逃げれたものの、もし何かしら思考が読めるようなスタンド使いが居たとしたらとても危ないし…そんなに貴重なものは持っていませんでしたが、もしかしたら私の身につけているもので何かしら情報を抜き取れるスタンド使いがいたと思うと…。
全て私の不注意です。どう責任を取って良いか…。」
まだガクつく足にもう一度力を入れて皆に頭を下げる。
するとジョースターさんの手が私の顔を無理矢理上げて、それからにっこりと清々しい笑みを浮かべて口を開く。
「考えすぎじゃ、名前。それに情報なんて今更隠す事なんて無いじゃろ?心配するな。」
「…っ!ありがとうございます。」
ついぞ溢れた涙をジョースターさんは笑って心配性じゃなあ〜名前は!と言って拭ってくれた。
まだ支えてくれた承太郎はその支える手を強めた。私はその心強さにまた涙を零すのだ。
ーーーーーー
「凄い…潜水艦なんて初めて乗ります。」
周りを見回しているのは私だけではないようで、ポルナレフや花京院も内装をしげしげと見つめている。
計器やなんだかよくわからない機械がむき出しで置いてあるのは確かに見ていてとても楽しいものだった。
「コーヒーを入れましょう。」
「あ、私も手伝うよ。」
そう言って立ち上がった花京院に私もハッとして共に立ち上がる。
ここで立たないとあまりにも女子としてどうなのだろうかという気持ちになったからだ。
「花京院、俺のも」
「自分で入れろ自分で!」
「まあまあ…」
花京院は特にポルナレフに信頼を置いているようで、まるで気心の知れた兄弟のようだった。
承太郎や私とはまた違うやりとりに私は呆れながらも笑みが溢れる。
「何を笑っているんだ」
「仲がいいなあって思って。」
コーヒーを入れながら問う花京院に私はさらりと答える。すると花京院は心底「何を言っているんだ」という顔をしてみせるが、そこも含めて仲が良いと私は思う。
ことりとテーブルに置かれたマグカップ。ジョースターさんが怪訝な顔をするので何かしくじったかと思ったが、おもむろに数え出すジョースターさんを見て私もその違和感に気がついた。
「あれ、数が一個多い…?私達数間違えて入れちゃったみたい。」
花京院にそう言うと、少し腑に落ちない顔をしながらもどうにかして溜飲を下げたようだった。
「やっと一心地って感じですね。」
そう言って私達も席に着く。黒々としたコーヒーにミルクと砂糖を少しだけ加えてカップに口を付けると、ほろ苦い香りが鼻孔をかすめる。
これで少しの間は一安心だ、と思った。
それも束の間だったのだが。
ーーーーー
ああ、なんだかんだ言って海は私の第二のホームなのかもしれない。
無重力な如く広がる髪に懐かしさを覚える。足は既につるりとした鱗に覆われており、呼吸もスタンドによるなんらかの力でほにゃほにゃされておりボンベは必要無い。
レギュレーターを破壊されたポルナレフを小脇に抱え、周りに合わせながら進む私にジョースターさんは便利な能力じゃなあ、と感嘆の声を上げた。
「スタンドの姿は見えねえ…このまま陸に上がるぞ。」
「うん」
ピリピリと周りを警戒していた承太郎がそう漏らす。スタンドで会話出来るなんてスタンドっていうのは便利だなあと思う。ジョースターさんのスタンドはどこから声が出ているのだろうかという事は考えないようにする。
このまま行けばすぐ陸だ。そうやって慢心していたのがいけなかったのだろう。
まんまと私たちはスタンドの口内へおびき寄せられることになった。
☆
(褒めちぎる作戦かあ)
ポルナレフが何かしら承太郎に耳打ちをして、承太郎がやれやれと言った辺りから何か始める気だなと思っていたが、まさかおだてる作戦だとは思いもしなかった。
それぞれが口々に自分の思う社交辞令(口説きともいうのかもしれない)を言う中、次はお前だというような視線が皆から送られる。
「えあっ!あ、えっとお、」
何も考えていなかった私はすこしわたつく。周りは固唾をのんでこちらを見守っているのだ。何かしら言わないといけない。
「あ!そうそう、プロポーションって声に出ますけど、すごく綺麗で通る声をされてますしとてもグラマラスで美しい女性なんでしょうね!是非お会いしたかったなあ。」
これでいいのだろうか!周りを再度見渡すと、ポルナレフもジョースターさんもサムズアップをしてくれていたからこれで良かったのだろう。
次は承太郎だ、と私たちの視線が彼に向かう。彼は物怖じせずに口を開く。
「一度あんたの素顔を見てみたいもんだな。おれの好みのタイプかもしれねーしよ。恋におちるか、も」
笑いそうになった私を誰が咎められようか。
承太郎が真顔でそんな事を言うと思わなかった。本当に真顔だ。声に抑揚はあろうともなんの感情も無い。
それがあまりにも滑稽で、にやつく口を手で押さえることでなんとか爆笑するのを抑えることが出来た。
これでスタンド使いの彼女も絆されるだろうと思っていたがどうもそうは行かないらしい。
逆に馬鹿にしているのかと怒り狂い、承太郎を歯と歯の間に仕舞い込むことになる。
当然承太郎はそんなピンチを物ともせず、持ち前の機転でどうにか切り抜けて、スタンドの彼女も戦線離脱。
やっと陸だと鱗は足に変化する。いつ見ても不思議だと思う。
ほんの少しではあったが海の感覚を取り戻していたためか、陸にあがった時に少しだけめまいがした。
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