友達なのだ。そう告げれば、医者は少しだけ声を詰まらせてから大事には至らないと思いますが。と言い切った。
「そうですか。いえ、それなら良いんです。すみません。」
針の抜けた腕に、もう一度針を入れ直してくれている看護師にも一言謝罪をする。
花京院がここに運ばれて来たということは、彼は刺客にやられたのだろう。そうでないとあんなに致命的な傷を彼が易々と負う訳が無い。
それはつまり、私と花京院は安静にここで待っていろと言われたようなものだ。
戦力外通知、というと彼らをとても遠く、冷たく感じてしまう。
「あの、先生。私はどのくらいここに居れば良いのでしょうか。」
倒れてから少なくとも一日は経っている。少しでも早く彼らに合流したかった。
「ああ、それなら明日の朝にでもできますから。安心してください。」
「えっあっそうなんですか?」
拍子抜けだと言えば拍子抜けではあるのだが、それ以上に嬉しかった。
点滴をあと数回すれば何の心配も要らないらしく、その点滴が終わるのが今日の夜中だという話だった。
「それなら安心です。ええと、彼らの連絡先というのは財団が所有してますよね?後でお聞きしたいのですが…。」
そうやって周りを見渡すと、医者ではないかっちりとしたスーツ姿の男性が一人こちらに会釈をした。
私も軽く会釈をしてから、この人がそうなのだろうと思い至る。
その人はそれからにこりと笑って、「ご安心ください、私がジョースターさんへの電話をお繋ぎする事ができますので」と言った。
なるほどスピードワゴン財団はジョースター煩悩のようだ。先ほどからそわそわと携帯電話を撫でているのは、私が連絡するようにとジョースターさんが彼に連絡先を教えたのを彼は大層喜んでいるのだろう。
一歩間違えるとアブないように思えてしまうけれど、この財団の存在もかなり長くあるようだ。信者が集うには十分なくらいなのだろうが、そもそもジョースター信者ってなんだ。ジョースターさんは神祖か何かなのだろうか。
「先生、先ほどの患者の意識が戻りました。」
「ああ、すぐ向かおう。名字さん、そういう事ですので。」
看護婦がドアから投げるように医師に伝えれば、すぐさまその医師はすこし弛んでいた白衣の襟を直す。
先ほどの患者とは花京院の事だろうか。
「私も彼に会います。」
今度はゆったりと余裕を持って立ち上がり医師に言えば、医師は少し考えてから強く頷いてくれた。
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「花京院くん。」
私の部屋よりも機材が多い部屋で、少し抑えた声で花京院くんに話しかける。
彼の目には幾重にも包帯が巻かれておりとても痛々しく思えた。一体何があったのか、彼に話してもらわなければいけない。
「ああ、名前。もう元気になったんだね。良かった、承太郎が特に心配していてね。」
「私の事なら今はいいの。花京院くん、何があったのか教えて。」
思いのほか元気そうな彼の声に私は内心ほっとするが、今はそれどころではない。
彼が負傷する程の相手だ。花京院以外にも誰かが怪我をしているのではないかと心配でならない。
「ああ、それがね。水を扱うスタンドに出会った。水分を自由自在に操って、場所の特定や、水をゼリーのようにして攻撃もしてきた。それ以外の事は僕が攻撃されてから後は気を失っていたから、何があったのか詳しくは知らないんだ。ごめん。」
花京院の声色が段々と自分を責めるようなトーンに変わっていって、こちらも心が痛かった。
少しの不注意が怪我を招く。そんな極限の状態に今の私たちはいるのだと再認識する。
「ううん、ありがとう。花京院くんが無事で居るってことは、彼らもきっと無事だろうし。花京院くんも失明はしなかったんだよね?それだけで救われた気持ちになると思うよ。」
聞き方によっては薄っぺらいかもしれないその言葉に自分で自分に舌打ちをする。
ボキャブラリーの貧困さが人を傷つける事があるというのは至極その通りだと痛感した。
「そう…言ってもらえると、僕もなんだか救われたような気がする。」
「うん。早く復帰して来ないと承知しないんだからね、花京院。」
彼の垂れる前髪を軽く引っ張って軽口を言うと、花京院は小さく笑う。
私もそれにつられるように小さく笑って、それじゃあ、お大事にと三日月の口から零して手を振った。
いや、手を振っても彼には見えないのか、とも思うのだが、彼もそれに振り返すように手を振ったのでまあいいかと思う事にした。
明日、私は彼らに合流する。
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