お大事に、と頭を下げる看護師にこちらも挨拶をして病院を出る。
するとみかんを手に持ち怪訝そうな顔をした承太郎の横顔が目に入る。
「承」
手を挙げて名前を呼ぼうとしたけれど、そこではたと声を出すのをためらった。
そうだ、私は気を失う前に彼にとんでもない事を言ったのだった。
その光景がフラッシュバックすると同時に声も固まったように出なくなる。
「?」
声も上げずに承太郎はこちらを振り向くモーションをしたのを目の端で捉えた。
私はすぐにそれに気がついて近くの柱にさっと隠れる。周りの人間が不審げにこちらをちらりと見るがそんな事なんて気にしていられない。
(か、か、隠れてどうすんだ!!)
柱の影で承太郎の姿を目で追うと、彼はさっきの声を忘れたように病院の中に入ろうとこちらに近付いてくる。
当たり前だがその時にこの柱の横を通る訳だが…
「何やってんだ、お前」
ばれた。
それはもう一瞬にしてバレた。
そりゃあそうだろう。遠目からだとは言え、穴があく程に見ていたのだから。
「なんでもないです…」
そして平然としている承太郎に少しだけ腹が立った。
彼はきっと悪くはないのだろうが、私がこんなにも気にしていた事を承太郎が全くと言っていい程気にした様子がないものだからむっとするのも間違いではないだろう。
「って」
だからふくらはぎを軽く蹴り込んでおいた。
「何すんだよ」
「なんでもない!花京院の見舞い?」
承太郎の手にはみかんの入った紙袋が抱えられている。
きっとこれを花京院に渡すつもりだったのだろう。
「ああ、それとお前の迎えも兼ねてな。お前の退院の手続きはえらく早かったようだが。」
話によると私はタイミング悪くジョースターさん達とすれ違ったらしい。
無駄な手間をかけてしまっただろうかと思ったが、花京院から話くらい聞くだろう。
「それはごめん。もうちょっと待ってても良かったのかも。でも、早く合流したかったから。」
「迎えにいくつったろ。」
「ちょっとでも早く会えるかなって…」
その割には咄嗟にかくれたけど、とは付け加えないでおく。何も自分から墓穴を掘りにいく必要なんて無いのだ。
「その割には隠れたけどな。」
まあ言われるとは思っていたけれど…承太郎も中々に人が悪い。
「うるせっ」
そう言って承太郎の腹を小突いておいた。今度はさほど痛くない筈だ。
承太郎も承太郎で何か告白について言ってくれたっていいのに。
そう思ったがそれはそれで気まずくなりそうなので結局今のままでいいのか、と小さくため息をついた。
「ほれ、さっさと花京院の所に行くぞ」
「はあい」
間延びした返事に承太郎は少しだけ頬を緩ませた。…ように思えた。
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「ハロー花京院。昨日ぶり。」
「や」
入院前より幾分か縮まった私と花京院の距離に少なくともポルナレフは驚いていた。
いつの前に仲良くなったんだよこのこの〜!と肘で小突かれて私は曖昧に笑顔で答える。
「体調はどうだ。」
「ああ、かなり良くなったよ。」
じゃれついている私達を横目に承太郎は花京院にみかんの袋をどさりと手渡した。
花京院はぶっきらぼうな承太郎の仕草ににやりと笑ってその袋の中のみかんを取り出し剥き始めた。
今のどこににやつく要素があるのだろうかと思ったが二人にしか通じない何かなのだろうか。ううむ、気にする方が野暮なのかもしれない。
「すまんが花京院、ワシらはもう行かなければならない。」
しきりに腕時計に目をやっていたジョースターさんが声を上げる。そうだ、ここで時間を取ってはいけないのだ。まだDIOの手がかりは掴めていない。
「ええ、分かっています。僕もすぐに追いつきますから、それまでどうか無事で。」
目が覆われていても花京院が微笑んだのはすぐに分かる。それを見て私たちも強く頷いた。
「花京院こそ、怪我に怪我を重ねないでね。」
そうやって私が言うと、後ろから承太郎が軽く頭にチョップをしてくる。なんなんだと振り返ると、少しの苦みを含めた笑みをうっすら浮かべた承太郎が立っていた。
少しだけ、ほんの少しだけどきりとした。
「テメーが言ってんじゃあねえぜ。」
その言葉に私も情けないであろう笑みを零した。
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