ぼんやり周りを眺めながら歩いていたら承太郎やポルナレフとはぐれてしまった。
しまった、と天を仰ぐもそれで二人が見つかる訳が無い。
最後に頼れるのは自分の足だけか、と見回しながら走り回る。

「ええ〜…居ない…本格的に私が迷子じゃんもう!」

逆ギレしても見つかる訳が無い。ため息を吐いてからもう一度来た道を戻る事にした。


「おねえちゃん!そこのおねえちゃんってば!」

背後から声がした。小さな子の声だったのでその子の姉の事を指しているのかと思っていたのだがどうも私の事を言っているようだった。
今は急いでいるのだが、と思いつつも振り向くと、そこにはポルナレフによく似た少年が私のセーラー服の裾を握っていた。
最初は短くしていたこの服も、入院中に花京院との世間話との合間に承太郎の好みが大和撫子だと聞いたから長くしたのだが、誰にも触れられることがなかった。悲しい。

「なあに?迷子?」

裾を握りしめる手を離させるように握りしめると、ポルナレフに似た少年は少し嬉しそうに笑ってからすぐに顔を引き締めた。表情豊かな子だなあと私は少し感心したが、少年の表情を見て何かのっぴきならない状況を察した。

「ええっと、あの〜!……なんだっけ…」
「……」

なんだそれは。
急に間の抜けた顔になった少年につい呆れた顔を向けてしまう。
しかし一瞬の引き締めた表情はやはりポルナレフに似ていた。
何もかもその髪型のせいなのだろうが。海外でこの髪型はトレンドなのだろうか。

「ま、まあいいや。ごめんねおねえちゃん」

とぼとぼと離れていく背中はどこか放っておけなくて、ついついその後を追ってしまう。

「あ、ちょっと君。困ってるんでしょ?一人じゃ危ないよ。私も人を探している途中なの。一緒に居てもいい?」

そう言うと、また小さく笑ってこちらを振り向く少年。大きく頷いて私の手を強く握りしめた。
その手が子供特有の暖かさだったものだから、気付かずに緊張していた肩もいつの間にか力が抜けていた。

「ぼくも急いでるんだから、おねえちゃんも急いでね!」
「はいはい」

人ごみの中からちらちらと見える黒い背中に私はどこか見覚えがあった。
左右に小さく揺れぬしぬしと前へ進むその姿は

「承太郎!」

やっと見つけたと言うように承太郎に駆け寄る。ポルナレフに似た少年もそれの後を追ってくる。
あれ、少年も承太郎と呼んでいる様な気がする。

「名前…と、誰だこのガキは。」

こちらを小さく一瞥してから振り向く承太郎に安心感が湧き出る。

「うん、途中で出会ってね。なんだか困ってるみたいだから、一緒に行動してたの。」

少しだけよれた裾を払いながら言うと、承太郎は少年をちらりと見て眉を顰める。

「俺もポルナレフとはぐれててよ。おいぼうや、君と同じ髪型をしたこれくらいの背丈のフランス人を探しているんだが、知らないか?」

承太郎は少しも屈もうとせず、時折ジェスチャーを交えながら少年に話しかける。少年はそれに怖じ気づく事もせずにただ承太郎の話を聞いている。

「俺!そ、それっおれだよ!」

必死にそう言うポルナレフに似た少年に、承太郎は鼻からため息を吐いて踵を返す。

「ガキに聞いたのが間違いだった。名前、構うのは勝手だが迷わず戻ってこいよ。」

ぶっきらぼうに承太郎はそう言うと、すたすたと前を向いて歩き出した。

「なんとかするよ」

私はその後ろ姿に手を振って見送る。
承太郎が見えなくなりかけた。その時、私の足に黒々とした何かが迫る。

「お姉ちゃん!危ないッ!跳んで!」
「言われなくともッ!うひょああ!目付いてる!」

ジャンプしてから視線を下げると不思議な形をした影が伸びていた。
生き物のように動いているところを見るとこれはスタンドなのだろう。
それを理解する間に私の足も地に落ちる。その時にはもうその影は足元から消えていた。

「な、な、な、何!?びっっ…くり…したあ〜……。」

本体はどこだ。周囲を見回すとそれらしき人物が視界をかすめた。
なんだか特徴的な髪型をしていて、一度見れば忘れないような見た目だ。

「安心したようだけどなァ〜、ちょびっとでも俺様の影に触れれば体も縮むってもんだぜ」

嫌らしく笑うメガネ越しの目にはこちらを挑発させるような色がありありと滲んでいた。
しかしその声に反抗しようとも、何故だか足が思うように進まない。
それになんだか視界が下がっているような気さえする。

「なんてこった!お、お姉ちゃんまでちっさくなっちまったァーーーッ!!!」
「え、え?ちっさく…?」

自分の腕、体、反対側の腕と見回すように自分の体を検分すれば、自分が幼くなっている事に嫌でも気がついた。
指がいつもより小さく丸く。顔からヘソの位置もいつもより近く感じる。
本当に幼くなっている。…もしかして、少年が承太郎に言っていた言葉もあながち間違いではないのかもしれない。
しかし幼くなるのもポルナレフ程では無いらしく、中学生か小学生くらいの背丈でとどまる事が出来た。影に触れる時間が極僅かだったのだろう。

「ねえ、君本当にポルナレフなの?」

そうやって問うと、少年は一瞬面食らったような表情をして、それからそうだよ!そう言ってんだろ!!と吐き捨てた。

「そう、じゃあちょっとだけ耐えて。私は…彼をこっちに連れてくる。」
「えっ」

すぐに踵を返してその場から離れる。確かポルナレフは小さい頃からスタンドがそばに居た筈だ。その情報は本人から聞いたのだ、間違いは無いだろう。
対して私はスタンドが発現したのはついこの間。戦闘力で言えば圧倒的にポルナレフの方が強いだろう。
少しそれが癪ではあるのだが。

「誰がそこを離れて良いと言った!」
「うおはああ!!」

目の前にはぎらりと光る斧。その光が私の目に入って、つい目を閉じる。

「ええい、出来るか分かんない事したくないのに…ッ!『マーメイド・ブルー』ッ!」

手には本当に小さなモデルガンのような拳銃。これでは引き金を引くのも一苦労だろう。
それに暴発の危険も考えられる。

「きゃー!もう!何これ?」

仕方が無い、小さい手榴弾をこれまたいつも見るより少し小さい手の中で転がしてピンを抜く。

「ポルナレフ、一応伏せて!」

その爆弾は私の手から離れて、スタンド使いの目の前で爆発した。
怪我なんてものはしなかったようだが、目くらましには十分なった。
地面に伏せているポルナレフに心の中で謝って、承太郎を探しに行く事にした。
ポルナレフは記憶を失っているようだが、私には失った後に残る記憶が無いらしく記憶が消える事は無かった。

「承太郎、承太郎!」

まだあまり遠くへ行っていなかった承太郎の背中を見つけ、呼びかける。こちらを振り向いた承太郎はえらく驚いた顔をしていた。

「名前か?」

ポルナレフの時はあまりにも彼が小さくなっていたものだから気がつかなかったのだろうが、今回はそうもいかない。
あまり背丈の変わらない(ように承太郎からは見える)、この国では特徴的なセーラー服に身を纏った自分の名前を呼ぶ少女と言えば私しか心当たりが無いのだろう。

「うん。スタンド使いに会ったの。向こうにポルナレフが居るから、早く!」

少し不審そうな顔をした承太郎の袖をぐいぐいと引っ張りながら言うと、少し迷ったようだが渋々私について来てくれるようだった。

「本当にテメーは名前なんだろうな。」

訝しく思っている事を隠そうともしない承太郎が聞いてくるが今はそれどころじゃない。
走って上がっている息で返す他無い。
因みに歩幅が違いすぎて、私は走っているが承太郎は早歩き…良くても小走りのような構図になっている。

「何!?何て言えばっ承太郎は私を私だと信じるの?」

ぜえはあと荒く呼吸をする私は自分の体力の無さと身長を少し恨んだ。

「あ、じゃあこの間私が倒れた時に好きだって言ったって事は!?」

どうだ、と勝ち誇った後に自分で何を言ったのかを自覚する。
しまった、後で掘り返されるような事を口走ってしまったと後悔する。
承太郎の事を振り返れないが、彼はきっとこいつは馬鹿だと笑っていることだろう。ちぇっ

「それで十分だ。名前はナビゲートをしな。」

それだけ言って、承太郎は私を小脇に抱えて走り出した。

  
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