あれから色々ありはしたが、そこはやはり承太郎とでも言おうか。
「まさか小さくなるスタンドが居るなんて思わなかったなあ」
ポルナレフが女の人に思いを馳せている間に私と承太郎は小さく言葉を交わす。
うんうんと頷く承太郎はいつにも増して口数が少ないのは、小さくなった自分を遠くからではあるが仲間に目撃されていたからだろうか。
「スタンドって不思議なんだね。まだまだ種類があるんだもの。」
スタンド使いを一つの場所に集めたら叶わない事は無いだろう。…と、勝手に思っているのだが現実問題どうなのかは定かではない。
私の記憶が戻るかもしれない………?
おかしい。一体どういう事なのだろうか。私はいつから記憶を失っていた?分からない。海の中に居た時は過去を振り返る程の余裕が無かった。旅に加わってからだって、過去よりも今を生きる事で手一杯だった。
「ねえ、ねえ承太郎。私、旅の途中で昔の話とかしなかった?」
過去が全て黒いペンで塗りつぶされたように暗い。それがとてつもなく怖くなって、私は長くのびたスカートの裾を握る。この服だけが、私が生きた証拠だった。
「何の話だ。」
「いいから答えて。」
語尾が強くなった、と自分でも思うがそれどころじゃなかった。私は今も自分の事でいっぱいいっぱいで、今にもあの海の時のように窒息しそうになる。
果ての無い暗闇に閉じ込められて、自分がどこを向いているのかすら分からなくて、いつか自分の存在さえも消えていくような。
「…覚えが無いな。」
「そっかあ…」
掴んだ手は思いのほかあっさりと離されて、私は地の底海の底へ迷い込む事になった。ああ、私は過去を経験を全て忘れたまま知り合いが少ないこの地で生きるのだろうか。
「記憶でも無くなったか」
冗談めかして承太郎がこぼした言葉はまるでナイフのように私を引き裂いて、私はそこに硬直するしか無かった。
私の心を全部透かして見えていたかのようなその発言は、今の私にとっては命をも刈り取るようなものだったのだ。
「……おい、まさか本当に」
「あ、ご、ごめん。いつからか分からないし、思い出せないのも海の底に居るよりも前だから承太郎の事忘れたとかそんなんじゃなくて。ああっみんなに迷惑かけたら悪いし言いたくもなくて!だから、その」
目に見えて狼狽える私に承太郎は眉を少し顰めた。それはそうだ。これからも旅が終わるまで一緒に居るであろう仲間の記憶が無いなど、かなりの騒ぎになって然るべき問題なのに私はそれを誰にも言わなかったのだから。
「…分かった。ジジイ達には言わないでおいてやる。だけどな、本当にダメだと俺が判断したらジジイ達にも言う。いいな」
「うん、心配かけてごめん。ありがとう」
「ああ」
普段無口な承太郎が、私を心配して言ってくれた言葉に思わず目頭が熱くなるが、それをぐっと堪えて前を見据える。
大丈夫、すぐに戻らなくてもきっとそのうち思い出す時が来る。だから焦らなくてもいい。安心しなくちゃ。大丈夫、大丈夫…。
喉をせりあがってくる嫌な感じを飲み込むように気を落ち着かせる。いつのまにか胸に当てていた手は服に強い皺を残す事になった。
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