まさかこんな偶然に、必然に、スタンド使いと巡り会うとは。
最初はただの賭けが好きなおじさんだと思っていた。しかしそれも一瞬で、ポルナレフがそのスタンドの餌食となった。
チップにされたポルナレフはそこから何が出来るでもなく、ただそこで倒れた。
ジョースターさんも、ほんの少しのイカサマでその体から魂が無くなった。
抜かれたのは魂のみで、魂をチップにしてコレクションするのが趣味だというスタンド使いに怒りしか覚え無かった。
一欠片の恐怖も無かったのは、私が一度海底で死にかけた事があったからなのだろうか。
何故か死を怖がらなくなっていた。
「次は私が行く」
承太郎とアヴドゥルさんの前に割って入り椅子に座る。緊張感をピリピリと肌で感じ、やめてしまおうかという気持ちにもなるが、私がここで勝てるならそれに越した事は無い。
負けてもきっと承太郎がなんとかしてくれると妙な確信があった。
「おい名前…」
「いいから。承太郎は切り札なんだから。…さあダニエル・J・ダービー、勝負よ。内容はジジ抜きでね。」
私は懐からトランプを取り出し、ダービーに渡し封を切って確認をさせる。
いつかみんなで遊ぼうと思い市場で買ったトランプが役立つ時が来た様だ。
なぜならこのトランプはイカサマ専用。買った人に配られる説明書を読まないと早々分からないギミックがあるのだ。
ほんの少しの小細工。カードの四隅にある小さな模様でカードの模様を、幾何学模様に組み込まれた小さなドットでそのカードの数を示している…というカード。
「浅はかですね、名字名前。このタイプのトランプは今まで何度も目にしてきた。この私が見破れないとでも思ったかね?」
「うーん、それは残念。まあいいや、じゃあこの勝負はお流れ前提のお遊び、遊びで命を掛けるイカれたゲームってことで始めよう。」
本当にこれから友人と遊ぶ様な笑顔で勝負の開始を宣言する。ルールは簡単、ただのジジ抜きだ。
しかしカードがあらかじめ模様で分かっているこの勝負、勝つには工夫が必要になる。
手で模様を隠すなりなんなり、やりようならいくらでもある。
「…あなたは死ぬ事が怖くないと?面白い、ここからは単純な物の隠し合い。ジジ抜きでイカサマなんて事は早々出来ないだろう。さて、宣言をしてもらってもいいかね?」
「手の内がバレてんだ、やめろ名前。」
「承太郎は少し黙ってて。いいよ、ダービーさん。私の魂を賭けよう!」
「グッド!」
まず最初に一枚カードを山から引き抜く。カードの裏でそのカードが何のカードか分かる。
模様からして、今回引かれたカードはハートのクイーン。
手元に配られた大量のカードから、被ったカードを引いていく。
模様で全てのカードが分かるのはもう両方知っているし、ダービーもこのようなカードは知っているらしい。
本当に遊びのように、カード裏と表を見比べもせずに捨てていく。
そうしていく内に手元のカードはほんの少しまでカサが減っている。
「折角の遊びなのにここで無言っていうのも面白くない。雑談をしよう、ダービーさん。私がDIOに出会った事は知っているの?」
「初耳ですね。私はずっとこの辺り一帯をうろついていて、DIO様と情報の交換をしたのは二週間前程の事だ。ま、誰が死のうと私がここで貴方達を始末すれば良い話なのですから、情報の交換さえも最早不要。」
承太郎達は私たちの後ろに陣取り、イカサマを見張っている。
今のところ何も相手は仕掛けていないらしい。本当に、ただ純粋なゲームを楽しんでいる。
…けれど私は違う。
「そこで少しDIOと話していた時に貴方の名前が出てたよ、ダービーさん。どうせ殺すつもりだっただろう私には割と彼は口が軽かったからね。
もし貴方があと数日で私たちを捕らえられなければ命は無いと。その数日の最終日が今日。良かったね、私たちが無事にこの喫茶店に入って。」
ただの嘘っぱちだ。ダービーもそれを分かっているのだろうが、DIOの名前が出た時点で少し焦ったのが目に見えて分かる。
あまりに偉大な存在は、時に恐怖を、畏怖を、覚えるのだ。
手にも少し汗をかいているらしい。ここからが本番なのだ。
さっきのカードはイカサマ用。その模様で人を騙し、その先に本物が存在する。
人は緊張したときに手にも汗をかく。その汗で模様が変化するのだ。
変化するカードは数枚だけ。相手にはそれ以外を引かせるようにしなければならないのだが、変化するカードが手札に残ったのはダービーが持っている一枚だけのようだ。
しかし、それでも勝ちようはある。どちらにせよ次に引くのは私で、しかもその私は彼の手札を知っているのだから。
こんな簡単に物事が進んで良いのかと思うが、その運に任せるしかない。
汗によって小さく傷のような模様が浮かんだカードに少しほくそ笑んだ。
「…ダービー、貴方の負けだよ」
彼の手元に残っているであろうカードはクローバーのジャックとダイヤのクイーン。
私の手元にあるのはクローバーのクイーン。
そして次に引くのは私。
迷わずダイヤのクイーンを引いた。
「あれ?」
はずだった。
手元にあるのはクローバーのクイーン、そして引き抜いたハートのジャック。
「水分に反応して模様が変わるカード。言ったでしょう、私はこの類いのカードには慣れていると。」
「でも、どうやって…」
「この変わる模様は小さな傷のような模様。そんな模様、少し爪で傷を付ければ変えられるんですよ。」
カードを裏返してよく見て、傷のような模様だと思っていたところを指でなぞると、なるほど本物の傷のようだった。
ダービーは全てを知っていて私を泳がせたのだ。ああ、なんて格好のつかない終わりだろうか。
後ろを振り返ると顔を青くしたアヴドゥルさんと、拳を強く握る承太郎が居た。
「ごめん、後は任せた。」
アヴドゥルさんの声を聞きながら、意識を手放した。
「ん…」
目を開けたら、目の前に承太郎が見えた。
勝ったのだろう、ダービーは気が狂ったように独り言を呟いていた。
「目が覚めたか」
「え、あっうんごめん重かったよね」
承太郎に抱えられていた。承太郎に抱えられていた…ッ!
意識の無い人間はとても重いと言う。きっと私の事も重いと思っていたのだろう。
なんてことだ、勝負なんて仕掛けるべきでは無かったのかもしれない。
そんな事を気にしても仕方が無いのだろうが。
「どうやって勝ったの?」
「話す程の事でもねえよ」
「ふうん」
腑に落ちない……が、今はそれどころではない。
気持ちを整理するのに精一杯だった。
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