夜。
シャワーの音が部屋に響く。
特段この後に何かしら事が起こるとか、そういう訳では無いのだが少しドギマギしてしまうのは許されることだろうと思う。
私も思春期という時期なのだ。この先だって、少し想像してしまうのはいいだろう。
…いいと言って欲しい。
いつか私の肌を承太郎の指が這うのだろうかとか、私たちの唾液が混ざり合う事があるのだろうかとか。
ああ、いやらしい。ふしだらだ。

「次、空いたから使え」
「へあっ!!ウン!ありがとうごめん使わせてもらうね」

早口でそれだけ述べて逃げるように浴室へ駆け込んだ。
浴室はまだまだ温かくて、それだけで脳みそが沸騰しそうだった。
今まではそんな事無かったというのに。
ここから出たときに私たちはどうなってしまうのだろうか。
意味の分からない思考を流すように勢い良くシャワーを浴びる。
程よく温かいお湯が気持ちよかった。

「は〜…」

パジャマに身を包んでユニットバスから出る。
ドライヤーの備え付けは無いらしい。承太郎はドライヤーなんてもの持っていないだろう。
タオルでしっかりと水気を取って枕に新しいタオルを敷いてから寝そべる。
承太郎は熱心にテレビを見ているが彼は言葉は流暢に分かるのだろうか。

「なあ」
「…何?」
「明日にはきっとDIOの館に着く。お前は本来俺たちは一切関係の無い人間だ。ここで名前は逃げたって良い。生活ならSPW財団が保証するだろう。」
「…」
「選んでくれ。俺たちについてくるか、自分の人生を歩むか。」

もしかして、私に話があるっていうのはこっちが本題だったのではないだろうか。
そう思う程彼の視線は真摯で、真っ直ぐだった。
私の身を一番に案じてくれていると分かる。でも、だからこそ。

「選べって…もう私の人生なんてあってないものだし、ここで逃げるなんて出来ない。承太郎、私をバカにしてる?」
「…してない。ただ、名前には生きて欲しい、それだけだ。」
「私は、ここで逃げて出来る生活なんて必要無いと思ってるし、きっと罪悪感で死んじゃうよ。」
「そうか」

いつの間にか隣に座っていた承太郎は震える吐息を吐いて、私に凭れ掛かって来た。

「重いよ」
「ああ」

それでももたれ掛かり続ける承太郎はやっぱり不安なんだ。DIOを倒せるとは限らないこの状況で、誰しも死は怖いものなのだ。
その中で一人、死が怖くない私はジョーカーになり得るだろう。鉄砲玉も時には役に立つ事だってある。
私は出来たとしても彼らの旅をサポートする事が関の山だが、居ないよりは居た方がいいだろう。
狙撃だって出来る。彼らの役に立てるだろう。
銀の弾丸は、吸血鬼の弱点なのだから。

「みんな生きて戻ろうね」
「…当たり前だろうが」

額を軽く小突かれてにかりと笑った承太郎は憑き物が落ちたような顔をしていて、私も自然に顔が綻んだ。
明日からはきっと決戦だ。気が抜けない日になる。
花京院が戻ってくればそれだけで勝つ確率は上がる。合流の日は明日か明後日かと聞いているから、大丈夫だとは思うのだが…。

………。

「承太郎」
「なん……」

思い切って合わせた唇は乾いていて、緊張が見て取れた。
少し唇を離して顔を伺うと、面食らった顔のまま固まっていたのだから面白いものだ。
その顔が崩れるのを見ないうちにもう一度唇を合わせたら、今度は舌が割り込んで来た。
あまりに性急ではないかと思ったがそれも仕方がないだろう。
シャワーを浴びる前に考えていた事がこれから行われるのだろうかと考えると心臓が破裂しそうになるが、その心臓は無視してしまうことにした。
するりと脇腹を撫でる手は少ししっとりとしていて、承太郎も緊張しているのだと少し安心することが出来た。

「ん…承太郎…」
「いいか、名前。今日最後までしても」
「ええ、それ今聞くの?無粋な…」
「うるせえ」
「…いいよ、これで私は承太郎のもの。承太郎も私のもの。大切にしなきゃね」

  
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