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いつも朝起きてから、ご飯を食べながらメールのチェックをする。それは仕事の連絡だったり、知り合いからの連絡、情報交換のためのメールだったりと様々だ。基本的にメールアドレスは用途ごとに分けているが、朝にチェックするのは仕事用のアドレスだけだ。なぜなら、友人や知人からのメッセージやメールは時間を決めずともついつい見てしまうから。最近は特にユキと手嶋くんからのメッセージが多いが、時折東堂さんや水田とも連絡を取る。

「あれ」

トーストをかじりながら未読メールを遡ると、月末に予定されていたシークレットパーティの主催から『お詫びとお知らせ』が送られてきていた。なんだか物々しいタイトルに急いで開封すると、そこにはパーティの日程変更が知らされていた。毎月月末、第四土曜日(もしくは第五土曜日)に行われるパーティで、基本的に日程がずれ込むことはないのだが、主催の都合や開催ホテルの都合でこのようなことが起こるのだろう。
変更された日程は四月中旬。四月の分と合併した形で行われるらしい。普段はあまり顔を出さないパーティだが、人事異動や新卒採用、その他様々な理由から参加する人間の入れ替わりが激しい3月と4月はなるべく参加するようにしている私としては、この変更があったとしてもなるべく参加をしておきたい。おそらく参加する人間は減るのだろうが、いつも不参加がちな私の存在を主催に示すためにも。

(まあ言うても夕方からやし、部活は出れるかな。最初やし、あんま抜けたないねんな〜)

まだ熱いコーヒーをそろりと啜って、トーストをかじる。ぼんやりしていたら少し焦げてしまったトーストは苦く、コーヒーの風味と混じり合ってよりその苦さを主張していた。



「これで家具組み立て連勤は終わりだな」

ユキの部屋に運び込まれた組み立て式家具を全て組み立て終わり、整った部屋で一息つく。意外なことにユキの部屋は整理整頓されていて、なんなら私の部屋の方が散らかっていたくらいだ。手嶋くんの部屋だって散らかっていたわけでは決して無いが、すでに物が配置されていたからか、普通の部屋だなとしか感じなかった。ユキの部屋はなんというか、ごちゃつく要素にうまく目隠しがされていて、人が住んでいる気配がしないような部屋づくりがされていた。生活感が無いとはこういうことか。

「お疲れ〜。飯食いに行こうぜ」
「今日はじゃあパスタ?」
「だなー」

整った部屋はなんとなく背筋がシャンとして、いつもみたくダラダラすることは無かった。多分暮らしていくにつれてこの雰囲気は薄れていくのだろう。

「そういや聞いた?新歓の話」

マップを開くためにスマホを取り出した手嶋くんがおもむろに言う。シンカンとは、新入生歓迎コンパのことか。まだ3月だというのに、もうそんな話が出ているのだろうか。というか、手嶋くんはそんな情報をどこから仕入れてきたのか。

「金城さん……知ってるだろ、総北自転車部の先輩。あの人も洋南なんだよ。時々連絡取ってるんだけど、そん中で新歓の話が出てさ。まだ大して決まってないらしいけど」
「金城さんって、私らが二年やった時の主将さんやん!そうなんや、洋南のメンツいかついなあ」
「俺らなんも聞いてねーよなあ。荒北さんもあんま連絡くれるような人じゃねえし……」

私とユキが顔を見合わせて言う。荒北さんは元々頻繁に連絡を寄越す人ではないし、私とユキもそれを知っているからこちらからも大して連絡を送らないのだ。シキバくんも原因は違えど似た様なタイプだからか、そもそも私たちもあまりメッセージのやり取りをしない方だというのもあるだろう。基本的に学校で会って話していたし、それが出来なければ大抵電話だ。電話は大体私かアブくんがかける事が多く、次いでシキバくん。ユキからは滅多にかかってこない。メッセージは卒業してからようやくグループトークがポツポツと動き出したり止まったりを繰り返しているくらいだろうか。それも基本的にシキバくんは参加せず、アブくんと私たちの近況交換のような様相だ。

「なんか日取りだけはさっさと決めたんだってさ。先輩達の都合もあるから」
「俺ら新入部員の都合は無視かよ!主役だろ」
「ま、四月中旬の新歓なんて殆ど先輩たちの飲み会なんじゃねーの?サークル見学期間中だろ、まだ」
「…………ちょっと待って、四月中旬て言うた?今」

脳内のスケジュール帳を開くまでもない。今日の朝確認したメールには参加の意思を返信したばかりで、記憶に新しいからだ。外したくないパーティと、なるべく休みたくない部活の新歓。天秤にかけるまでもなく重いのはパーティだ。これからの仕事にも関わるし、何より話を聞く限り新歓は数回行われる。

「私それ出られへんわ」
「え、何で」

不思議そうな顔をしている手嶋くんと、何となく理由は思い当たるものの口を閉じているユキ。仕事がどうのこうのなんて話は私が教えない限り他人が言うことでもないだろうという配慮だろうか。いや、案外説明が面倒なだけかもしれないな。

「仕事の関係で、行かなあかんとこがあって」
「仕事……?あ、もしかしてモデルとか?」

手嶋くんの言葉を聞いて、ユキが心底面白そうに吹き出す。しかしなんで彼は私がモデルなんかだと思ったんだろう。背も低いし、スタイルだって飛び抜けて良いわけでも無い。顔は確かに良いかもしれないけれど、どう見てもモデルには不向きなのに。ユキの反応に予想が外れていたと察した手嶋くんは、少しだけ照れたように笑う。

「あ、あー?違ったか、ごめんごめん。いや、ほら。名字ちゃん姿勢良いし、何となく見られ慣れてんのかなって思って」
「姿勢褒められたん初めてかも。ユキ、何わろてるんや。どつくぞ」
「まあまあ……」

ひいひい笑うユキの背中をこぶしを押し当てる。それにしても姿勢が褒められるなんて、本当に思いもしなかった。確かに意識して背筋を伸ばすようにしていた時期があって、それ以来胸を開いてシャンと立つ癖がついている。
立ち姿というものは人と向き合った際に実は印象を左右している。肩が丸まった人間は自信無さげで、信用に足る人間だと思われにくい。逆に、まっすぐと立っている人間はどこか自信ありげで、明るい印象を持たれやすいのだ。
そういったものを意識するという時点で、確かに他者からの視線を気にしている。見られ慣れていると感じさせたのはそういうことだろう。加えてこの間まで我々は高校に通っていたことを考えると、ビジネスマンよりもモデル業が先に思い浮かぶのは当然だ。

「じゃあ、うーんと……営業とか、接客とか?」
「うん、まあそんな感じ。人材情報屋みたいな、そんな感じやと思っといたら7割方正解かな」
「へえ、インテリだな」
「立派だなあ」
「そうかもね」

ようやく笑いを止めて脇腹を押さえながら丸めていた背を正したユキの背中を平手で軽く叩いて、私たちは再びパスタ屋へと歩を進めることにした。




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