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桶で流れるスイーツたちで目と舌を楽しませて、その日は解散になった。解散といっても帰る方向は同じで、私の家は手嶋くんが帰る道中にあるから家の前まで送ってもらったのだが。
それからその日の夕飯を作ったり、仕事の関係で必要な書類を用意したりと1日を過ごしていたら1日も終わりになった頃に悠人からメッセージが入っていることに気がついた。悠人は連絡がマメで、それを信頼して「困ったことがあったらいつでも言ってね」と卒業前に伝えておいたのだ。

『名字さんお久しぶりです。名字さんがやっていたマネージャー業務について聞きたいことがあるので今度会えませんか?』

悠人は案外文面では丁寧な印象を持つ。会ってみればあの性格だから、彼と直接メッセージのやりとりをしてからインタビューに来る記者が目を白黒させることは珍しい光景ではない。慇懃無礼というわけでもないのに、彼ののらりくらりとした雰囲気が文面とのギャップを感じさせるのだろう。

とにかく、彼のメッセージでは会って話したいということだったので、自分の時間割と仕事のスケジュール、それから悠人の都合的に平日は夕方からしか会えないだろうことを考慮していくつかの日程を提示する。悠人からのメッセージは数時間前に来ていたものだったのに、送ったメッセージにはすぐに既読がつけられた。本当にマメな人だ。
提示した中でも一番近い日程を彼は指定してきた。平日の放課後、つまり部活中の時間だ。自分で指定しておいて、部活中にOGが顔を出すというのはどうなんだろうか。
この時期だから、もしかしたらインターハイに関わるのかもしれない。だったら真波から連絡が来そうなものだが、真波はメッセージのやりとりもマイペースだから見かねた悠人が私へコンタクトをとってきたのかもしれない。

『ていうか、電話やとあかんの?』

後輩であり高校生の悠人に静岡に来てくれとも言えないので、私が神奈川へ赴くことになった。正直1日仕事になるし、交通費もバカにならないから電話で済むのであれば正直その方がありがたい。とはいえ久しぶりに箱根学園に顔を出すというのも悪くないので、来いと言われたら足取り軽く向かうことになるだろう。

『名字さんに会いたいんです。ダメですか?お忙しいなら電話でも大丈夫です。』
(甘え上手め……)

自然と頬が緩む。彼は上に兄がいるからなのか、こうやって人に甘えるのが本当にうまい。真波も狙ってか狙わずか可愛い後輩をやってみせるし、箱根学園の女子人気総取り二人はそれだけの理由がある。まあ、悠人は黄色い声があまり得意ではないようだが。悠人はそういうちょっとしたところで微妙に不器用なのも良さの一つなのかもしれない。

『可愛い後輩のためやったら全然。自分で時間出しといてなんやけど、部活中に行ったら迷惑ならへん?』
『大丈夫ですよ。その日はちょうど中間テストで部停なんです』
『ああ!』

箱根学園は自転車競技の名門で、部活にも勉強にも力を入れている厳しい学校だ。テスト前の部活停止期間も一週間ほど設けられてはいるものの、自転車競技部は申請をしてそのうち数日だけ上級生ミーティングが行われる。ちょうどその時に被っているということだ。ちなみに、部の規定で定期テストで赤点をとったものは追試で合格するまで部活に参加することが出来ない。

『ついでに少し勉強教えてください』

おねがいします!と言っているうさぎのスタンプに思わず笑う。確かに、真波たちよりは私の方が多少役に立つかもしれない。真波は勉強が嫌いだし、銅橋は自分の勉強に忙しいだろうから。

『あんま期待せんといてね』



大学の授業をつつがなく終わらせて、チャイムと同時に出席表を提出し教室を出る。肩に引っ掛けたトートバッグには使い古した参考書が入っている。建物の影に沿うように並べられたバイクや自転車の中から自分のものを選んでキーを差す。ルートはすでに授業中飽きるほど確認した。高速道路を使えば一時間半で着くようだ。到着予定時刻は約束の時間よりもいくばくが早いが、聞けばその日は朝に部室を開けておいてくれるということだからこっそり忍び込んで休憩するとしよう。





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