Side真波


名前さんと総北の……確か、手嶋さん。二人が交際しているんだとユートから聞いた。ユートは多分名前さんのことが好きだったから、その反動で妙に練習にリキが入るようになった。俺としてはあんまりにも気合いが入ってるもんだから少しめんどくさいけど、キャプテンとしてはきっと良いことなんだろうと思う。
その話を耳にした次の日、なんとなく体がズンと重くて、ベッドから出たく無くて学校を休んだ。自転車に乗らない日なんて何年振りだろうと病気で伏せりがちだったあの頃を思いながら二度寝をした。委員長が何度か電話をしてきたけど、それに出る気もしなくて、申し訳なく思いながらも出ることはしなかった。
俺は別に、ユートみたいに名前さんのことを好きだったわけでは無い。先輩としては慕っていたし、彼女の人との関わり方にどこか親近感を持ってすらいたが、それは恋愛的好意と結びつくことなかった。というより、俺は誰にもそういった感情を持ったことが無かったし、あまり理解も出来なかった。
一度名前さんを家に泊めた時、彼女も「そう」なんだと思って声をかけた。彼女は怪訝な顔をしていて、俺が何を言おうとしているのかあまり分かってなさそうだったから忘れるように重ねが、多分彼女は覚えているだろう。
あの後も彼女はきっと俺と同じなのだろうと思っていた。恋愛が、恋愛こそがと言われ続けるこの世界で、同じ人が近くに居ることで俺はどこか安心していた。
だが違った。
名前さんは紆余曲折あっただろう末に異性との交際を選び取った。彼女の心の底なんてわかりはしないし、わかろうとも思わないが、とにかく誰かに心を寄せる結果になったことだけは確かだ。
勝手に期待して勝手に裏切られた気分になっているのだから自業自得ではあるし、そもそもこんなことで落ち込むなんて俺らしく無い。きっと、今日一日存分に考えた末、俺はいつものように生きて、ペダルを漕ぐのだろう。

「名前さん……次あった時なん言やいいかな。ま、何か特別に言う必要は無いか」

ベッドの上でうーんと伸びをしてカーテンを開ける。雲ひとつない空が目に入って、やっぱり自転車に乗りたくなった。





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