Side泉田
気がつかない内に同級生の女子が知り合いと交際をしていた、と言うと案外よくあることだ。でもその同級生の女子は高校の頃にすごく仲が良くて、いつも気にかけている女子だった。
ちょっと目を離したら色んな人に絡まれて喧嘩をしていたり、時には向こうからボクを頼ってきたりした。妹がいたらこんな感じなのだろうかと思ったりもしたが、本人にそれを伝えるつもりはない。
久しぶりに会った名前は卒業した時から何も変わっていなくて、助手席から彼女を見た時だけ急に大人びたように見えたものだ。
「そや、アブくんとシキバくんに報告があんねやった」
明日からいよいよインターハイ、ボクたちはあのコースを走ることは無いが、大切にしてきた後輩たちの晴れ舞台だ。どうにも落ち着かなくて同輩で集まってレースの映像を見ていたら、思いついたように名前が声をあげた。
「え、何、改まって。人を殺したとか?」
「アブくん私にだけなんでそんな当たり強いん? ちゃうくて! あのー、まあ、大した話ちゃうねんけど……」
煮え切らない態度の名前に、僕も葦木場も首をかしげる。一人だけ訳知り顔なのはユキだけで、何を考えてるのかわからない顔でテレビ画面を注視していた。しかし、言葉を選んでいるのか言い出しづらいのか一向に二の句を継がない名前に痺れを切らして、あぐらをかいていた足を崩して面倒そうに口を開いた。
「そういや名前、手嶋とホテル一緒にすりゃ良かったんじゃねーの」
「え、名前、手嶋くんと付き合ってるの」
物が切れそうなくらいの鋭い視線をユキに向けた名前は、大きなため息をついて「まあ」と続けた。
「うん、ついこないだから。話すと長いし話さへんけど、そんな感じ」
名前が誰かを好きだとか、そういう話を聞いたことがなかった。少なくとも高校に在学している間はフラフラと数人と関係を持っていたという話を小耳に挟みはしたが、特に好きだ嫌いだという範疇でも無いらしかった。そういうところはすごくユキと似ているなと思っていたので、誰か一人を彼氏にしたというのは少し意外だった。
手嶋くんのことを大して知らないボクからすれば彼に名前を任せて大丈夫なのだろうかといらない心配もよぎったが、名前が彼ならと思うのならきっと大丈夫なのだろう。というより、ボクは名前の親族でもなんでも無いんだから、任せるもクソも無いのだ本当は。
「でも意外だな、君ってちゃんとまともに人と交際とかするんだ」
「し、失礼な……」
複雑な胸の内を悟られまいといつものような軽口で返す。ボクは名前から手嶋くんとのことを相談されたりしなかったし、何か色々なことがあったことも言葉尻から察せられるけど、全てが完結した後のさらりとした報告でまとめられた。名前のすぐそばにはユキや荒北さんがいたからきっと彼らが名前を支えたのだろうということは想像に難くないけれど、そこに自分がいなかったことが少し寂しく、歯がゆかった。どこまでも自分勝手な感情なことも理解した上で、だ。
思い返せば高校の少しの間ボクは名前に惹かれていたのかもしれない。名前は気安い友人だったし、よく気のつく綺麗な女性でもあった。気がつくと構ってやりたくなったし、彼女が楽しそうに笑っている風景はボクの心を癒していたと思う。何もかもが推測でしかないのは、気がつけばその感情は日常に変わって、変に高揚することも無くなったからだった。
それもあってか、名前の報告には少なからず動揺したのだ。ユキが悠人の心配をしているけれど、ボクは悠人の心配が出来るほどまだ気持ちの整理を出来ていないらしかったから、不思議そうな名前に合わせて首を傾げておいた。
「うわ、もうこんな時間やん。うち部屋戻って寝な、明日私が運転手なんやった」
紙コップを片手に名前がふらりと立ち上がる。寝る体制を全て整えてから集まったものだから、皆んな同じホテルのパジャマを身にまとっていた。襟元に余裕があるデザインをしているから、少し屈めば色々と危ない。
彼女のこういった人目を気にしない適当なところには部活の合宿や修学旅行なんかから分かってはいたが、久しぶりに見るとギクリとする。
「……ああ、おやすみ。明日はよろしく」
「おー、まかせな」
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