「ねぇ、素敵なレディ。良ければお名前を教えてくれないかな」
「や、八百万、百」
「百ちゃんか、素敵な名前だ。可愛い君にとても似合っている」
「ありが、と……」
ホームルームが終わり、相澤が教室から出ていった後、灯吏は自分の前に座っている女子、八百万百に話しかけていた。
動揺なんか微塵も見せないイメージの彼女が、彼の2、3の言葉に顔を赤らめ答えている。
それがクラスメイト(特に男性人)には衝撃的で、彼らの中で灯吏に『イケメン』『いい声』『モデル体型』の他に『非童貞(チャラい)』というキーワードが追加された。
雄英のヒーロー科の授業構成は普通のものとは違う。
午前中は一般教養の授業…現国や英語、数学など普通科と同じような授業が行われる。
ヒーローと言えど、いくら強くてもバカでは格好がつかない。
「(なんだ、案外普通の学校じゃないか…)」
朝から晩まで戦闘訓練を想像していた灯吏は、少しだけ心の中で安心した。
クルクル、と指でシャーペンを回すと先生が板書した文字を綺麗に書き写していく。
普通の授業は嫌いではない。
元々頭のいい部類になる灯吏は、(学校に来てさえしていれば)案外授業はまじめに聞く。
しかし午後、
「わーたーしーがーー!!!」
昼食を食べ終え(食堂で食べていたら、いつの間にか灯吏の周りに女子が集まりちょっとしたパニックになった)生理的な眠気に敗北しかけていた時、聞き覚えのあるバカでかい声で現実へと引き戻されてしまった。
「普通にドアから来た!!!」
目を開け教壇を見ると、そこにはスーパーヒーロー・オールマイトが立っていた。
「(彼も講師だったのか…)」
彼は一体何を教えてくれるのだろう…古文とかだったら少し面白いかもしれない。
と、灯吏はまだフワフワしている頭の中で思考を巡らす。
オールマイトの声をBGMに、灯吏の意識はまた遠くに飛び立とうとしていたが、彼が放った一言で一瞬にして脳が覚醒した。
「戦闘訓練!!」
ああ、やっぱりここは普通の学校ではなく、ヒーロー科なんだな。
普通に生活をしていたら絶対耳にしないであろう言葉に、灯吏は少し頭痛を覚えた。
自分は、弱いわけではない。
ただ暴力的な争い事が嫌いなのだ。
「コスチュームに着替えてグラウンドβに集合!!」
こんなことなら保健室で寝ていれば良かった。
灯吏はいつになく重く感じる体を立ち上げると、自分のナンバーが書いてあるボックスを取り更衣室へと足を進めた。
惰性で始まる物語
めんどくさい、傷つくのが怖い、オレは人々を笑顔にしたいんだ。悪者退治がしたいわけじゃない。
- 4 -
*前次#
ページ:
ALICE+