「始めようか!有精卵ども!!」


無自覚一方通行




灯吏着替えてグラウンド行くと、そこには特撮ヒーロー以上に着飾ったクラスメイト達が既に集まっていた。
マスクを着けている者も多いため誰が誰だか、性別すらも危うい。
一方、灯吏のコスチュームは至って軽装だ。
黒色のワイシャツにボルドーがアクセントで添えられているプルシャンブルーのネクタイ。
ボトムはワイシャツと同じ黒色スキニーパンツ、シューズは嫌味にならない派手さのシルバーのショートブーツだ。
これから敵〈ヴィラン〉退治ではなくファッション雑誌の撮影に行くような格好が明らかに浮いていた。
強いてヒーローっぽい所を挙げるとすれば、手に持っている謎のステッキしかないだろう。

そんなことは彼にとってどうでも良かった。
そんなことより『グラウンド』と呼ばれたこの施設に驚きを隠せないでいた。
『体育祭などで使うトラックのある屋外』を想像していた灯吏だが、そこにあったのは一つの街そのもので、いったいどこからどこまでが本当に雄英の敷地内なのか戸惑ってしまう。
ここに人が住んでいてもおかしくない。
優秀なヒーローを育成するためには必須な施設だが、さすがは国内一のヒーロー学校といったところだろうか。

「かっこいいね」

雄英の設備に感心していると突如声をかけられ灯吏はそちらへと視線を送る。
そこにはオールマイトのような触覚を生やしたマスクを着けている男子(声からして)がこちらを見上げていた。
彼のフォロワーだろうか。

「僕、緑谷出久。えっと、湊川くん…だよね?」
「そう、湊川灯吏。君のスーツもカッコいいね、強そうだ」

灯吏がニッコリと笑って緑谷のコスチュームを褒めると、彼は「ああああ、あ、ありっ、がと、」と煙が出るのではないかと思うほどの動揺を見せ、腕で顔を覆っていた。(まるで女子に褒められた童貞のようだった)

「あ、湊川君て、どんな個性なの?」

そんな彼の様子を微笑ましく見ていたら落ち着きを取り戻したのか、覆っていた腕を下げ、灯吏を視界の端に入れながらそう言うと、灯吏はまた笑みを浮かべて自身の唇に人差し指をそっと当てた。
自然と、緑谷の視線が彼の口元へと移動してしまう。

「内緒」


 ▼


午後はどうやらここの施設の一角を使い、屋内での戦闘訓練を行うようだ。
正直、「ここで大乱闘をしてください」と言われてしまったらどうしようかと内心ヒヤヒヤしていたがその心配はなくなりホッと撫で下ろす。

このご時世、ヒーローに興味のない灯吏も流石に敵〈ヴィラン〉とヒーローの戦闘は見たことがある。
だがそれはすべて屋外で、屋内での戦闘は聞いたことがない。
新聞やニュースで報道されるのも、皆屋外で暴れまわって大きな被害を出したもののみだ。
オールマイトが言うには、敵〈ヴィラン〉というものは屋外より屋内の方が圧倒的に多いようで、屋外では派手な戦闘が行われるため印象が残りやすいしメディアも取り上げやすいから、錯覚的に屋内<屋外と思い込んでしまいがちなのだと。

「君らにはこれから『敵〈ヴィラン〉組』と『ヒーロー組』に分かれて、2対2の屋内戦を行ってもらう!!」

はて、と『2対2』という単語に灯吏は少し疑問を抱いた。
このクラスは21人で、ペアを組むと必然的に一人余ってしまう。
まあ仮にも教師である以上何か考えてるんだろう、と特にそれを口には出さなかったが『余りはオールマイトと組む』という事にならなければいいな、と心のなかで手を合わせお祈りをした。
クラスメイトが彼の言葉に一喜一憂している間も、灯吏は無表情のまま腕を組み虚空を見つめている。
光に当たると漆黒だと思われた灯吏の髪が紺青色瑠璃色へと姿を変えて、まるで深海のような印象を受けた。

「(綺麗だ、)」

左半身を氷のようなモチーフで覆っている少年が、輪の端から偶然その瞬間を視界に入れたと同時に離せなくなった。
それは、彼が恋に落ちた瞬間である。(しかし彼自身は気がついていない)

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