ペアを組んでの戦闘訓練のため、チーム分けを行う。
灯吏はオールマイトの持っているボックスの中に手を突っ込むと、その中からひとつ紙を摘んで取り上げるとペラリと中を覗いた。
「……?」
「お、君が引いたか」
その紙には何書かれておらず、それと相乗してオールマイトのその言葉に一気に嫌な予感が襲った。
「君はMVPとサシで訓練をしてもらうよ」
嬉々として自分の背を叩くこのヒーローをどうしてくれようか。
個性を使ってこの状況をどうにかしたかったが、あいにく個性を使い慣れていない灯吏はこの状況をどうしたら打破できるか想像つかなかったし、もし打破できたとしても後々面倒くさくなるのがわかっていたので、せめてもの悪あがきにとその紙をクシャリと握りつぶした。
「『灰になれ』」
そう呟けば手の中の紙は一瞬熱を持ち灰になる。
再度灯吏が手を開けば、それは風に吹かれどこかへ飛んでいってしまった。
残ったのは彼の掌に残る黒い痕のみ。
「(、失敗した)」
払ってもなかなか取れない汚れに灯吏は軽く苛立つ。
今度から灰はやめよう。
そうだな、ゴミが木になったりしたらエコロジカルで面白いかな。
「(はて、なんの法則、だったか)」
▼
「今回の授業のMVPは轟少年だ!!」
全てのペア戦闘訓練が終わり、MVPである人物がオールマイトの口から告げられた。
戦闘訓練中、個々の能力を把握しておかねばと普段使わない頭を珍しく活用したので灯吏は既におつかれモードだ。
気を抜くと眉間にしわが寄ってしまう。
轟、さて、誰だったかな。
残念なことに個性は覚えていても、それと名前と顔が一致しない。
おそらく最短で勝利したチームの、氷の彼か。
そう思い目を配らせると、パチリと綺麗なオッドアイと交差した。
「さて!残り1人!湊川少年の戦闘訓練が残っているね!!」
オールマイトがそう叫ぶと、クラスメイトが一斉に灯吏の方に目を向ける。
少し擽ったい気もするが、ニッコリと笑って熱い視線をくれた彼らに手を振った。
「対戦相手はMVPの轟少年にやってもらおう!彼はさっきヒーロー役だったから今度は敵〈ヴィラン〉!湊川少年はヒーロー役をやってもらう!」
敵〈ヴィラン〉役、ということは最初は屋外で待機。
その間に作戦を考えなければならない。
「(轟くんの個性は凍らせる…そしてそれを溶かすこともできる)」
モニタールームから退出して演習棟へ向かう二人に会話はない。
恐らく轟も作戦を練っているのであろう。
特に重い空気ではないので灯吏もこのまま放っておいたが、唐突に「おい」と声をかけられそちらを向いた。
「俺、お前の個性しらねぇんだけど」
これじゃ対策も立てられねぇ、と眉間にしわを寄せた彼は些か苛立ったようにも見えた。
「そうだね、君には教えておこうか」
灯吏が足を止めると轟も同じように足を止め彼を見上げた。
薄暗いこの建物の廊下で、灯吏の藤色の瞳だけが妖しく光って轟はまた彼から目が離せなくなてしまった。
「俺の個性は【言の葉】、言ったことが現実になる恐ろしい個性だよ」
彼の個性を聞いて、正直チートかと思ったが、灯吏の自傷的な笑みを見てその考えはどこかに飛んでいった。
ああ、こいつも自分の個性に嫌悪感があるのか、と仲間意識さえ芽生えた。
「じゃぁお前が口を開く前に凍りづけにすりゃいいな」
一言灯吏にそう告げると、轟は彼に背を見せ数歩先を歩んでいった。
正直、そんなことを言われると思っていなかったので、灯吏の頭の中はフリーズしている。(凍りづけにされたのかもしれない)
大体この個性のことを告げると、周りの人間は自分と会話を避けるようになるのだけれど、彼の態度を見る限りそれはなさそうだ。
灯吏は前を歩くツートンカラーに、安心したように微笑みかけた。
▼
《湊川少年、スタートだ!》
どこかにあるスピーカーからオールマイトの声が聞こえたので、了解と言わんばかりに手を軽く上げた。
作戦?そんなものはない。
しばらく轟対策を考えていたが、いかんせん個性を使い慣れていないほぼ一般市民の灯吏にいい案が浮かぶわけでもなく、もうこうなれば正面突破しかない、とまるで脳筋みたいな結論にたどり着いた。
ただ一つだけ分かることがある。
パキィッ――――――
灯吏が侵入して2階へ続く階段を見つけたとき、部屋全体、いや、建物のほぼすべてが凍りづけにされて灯吏の足も床に氷で縫い付けられてしまった。
「(こう来るだろうな、)」
一対一の場合、通常なら目的の部屋まで罠を張り巡らせるかその場所から動かない。
だが轟は相手を動かなくさせる術を持っている。
相手を動かなくさせれば自分は自由に動けるので勝ったも同然だ。
何度か足を動かそうと力を入れてみる灯吏の前に轟が現れた。
これで捕獲証明のテープを貼られてしまったらお終いの絶体絶命だが、灯吏の顔にはまだ余裕の表情が浮かんでいる。
「余裕そうだな」
「キミ、ワザとかい?肝心なところが自由に動かせるよ」
肝心なところ、と灯吏が指したのは自身の口のことで、そこが塞がれない限り灯吏にとって拘束など意味が無い。
「ああ、お前の個性を見てみたくてな」
ほら、使ってみろよ。
顔は笑っていないが幾分楽しそうに見える轟の空気を感じて、灯吏も口の端を軽く持ち上げた。
挑発されているのは分かっている。
さて、どうやって魅せつけてあげようか。
この能力を、生涯記憶から消えないようにどう焼き付けてあげようか。
「轟くん」
なんだ、と轟が返す前に灯吏あ妖しげな笑みを浮かべたので身震いをする。
恐怖、とかそんなんじゃない。
ただただ妖艶で、それが癖になりそうで、もっともっとそれを見ていたくて、体の中の欲望がドロドロと流れていくような感じだった。
「『こっちおいで』」
人差し指をちょいちょいと動かし灯吏がそう口にすると、ゆたりゆたりと少しおぼつかない足取りで轟が灯吏へと近づいていく。
そして爪先と爪先が付きそうな距離でピタリと止まると、藤色にナイルブルーとランプブラックを映すと満足そうにそれを細めた。
一方ナイルブルーとランプブラックの方は困惑の色を露わにしている。
それもそうだ、彼はここに来るまでの経緯を覚えていない。
気がついたらその端麗な容姿が目の前にあって笑っていたのだ。
「驚いた顔してるね」
ああ、楽しそうだ。
この表情を、ぶち壊してやりたい。
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