「さあ、『こんな氷もすぐ溶かせる』ことだし、」
灯吏がそう口にすると、氷がまるで熱湯を浴びせたかのようにみるみる溶けていく。
普段は逆側を使って氷を溶かしているが、轟はなにもしていない。
となると、必然的に目の前にいるこの優男の能力が発動したことになる。
ゾッ、と轟の中に寒気が走った。(それは寒さからか否か)
「、本当に口にしただけで発動するんだな」
なにかモーションがあるわけでもない。
常日頃発しているその言葉が武器となり凶器になるのだ。
自分とは違う、目に見えないものに圧倒されるのは未知なぶん恐ろしい。
対して灯吏は上機嫌だ。
自分の能力に相手がビビっているからではなく、もう個性を発動しているわけではないのに自分の前から動かない轟に灯吏はご満悦なのだ。
言の葉の個性は発動も気づかれにくいが解除も気づかれにくい。
2つ同時に発動できないので(これは弱点になるから伝えはしないが)現在轟に対する『こっちにおいで』はすでに解除されているはずだ。
動こうと思えば動けるし奇襲をかけることができる。
だけれど彼はまだ自分の個性が発動しているものだと思い込んでこの場から(自分の意志で)動かずにいるのだ。
灯吏はこの瞬間が好きだったりする。
お察しの通り、性悪だ。
「じゃ、探させて貰うね」
彼の横を通り抜けようとした時、轟は灯吏の細い腕を引っ張り勢いよく床へと押し倒した。
「い゙っ…!」
「あ?なんだ、もう動けんのか」
思いもよらない轟の行動に油断していた灯吏は簡単に組み敷かれてしまう。
轟の行動が意図的なものか本能的なものかは分からないが、そのとき背中を強打して一瞬呼吸が止まった。
ああ、滑稽だったのは自分の方だったのか。
「すっごい痛い…!」
「悪かったな」
痛む背中に意識を奪われていると、いつの間にか轟が自分の上に馬乗りになっていた。
喧嘩や戦闘でこの状況は絶体絶命だが、言葉を自由に発せる以上灯吏の勝ち目は薄れない。
どうにか上に乗っている轟を退かそうと口を開くが、言葉にする前に彼が掌でそれを覆ってしまった。
今度こそ、灯吏の勝ち目はほぼ0になった。
いざとなると言葉が出てこなくなるのは、やはり個性を使い慣れていないからだろうか。(かといって灯吏には使い慣れる気は更々無い)
力づくで轟の腕を退かそうと試みようとしたが、シャツを着ていても分かるガッチリとした筋肉質な腕は自分の観賞用のものでどうこうできるものではなく、早々に諦めたのだ。
せめてもの悪あがきに、と膝で轟の背中を何度か蹴ってみるが「やめろ」とまるで猫をあやすかのように優しく促されおとなしくそれに従った。
「あんまり暴れんなよ。おとなしくしてりゃ痛くねえから」
レイプ犯みたいな轟の言葉に吹き出しそうになってしまったが、それを喉の奥でぐっと堪える。
轟は空いている右手テープを取り出すと、灯吏の腕に巻きつけた。
その瞬間、モニタールームのオールマイトから訓練終了の言葉が言い渡される。
勝者:轟焦凍
無自覚一方通行
さっきからうるさい
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