pipipiとうるさい携帯のアラームを手探りで止めると、画面には起床予定より1時間早い時間が表示されていた。

なんでこんな時間にアラームが、と思ったがよくよく見るとこれは自分のスマホではない。

「……起きてください」

隣で寝ているスマホの持ち主の肩を軽く揺すると、彼は「あと10分」と消え入るような声で返事をしてまた夢の中へと旅立っていった。

しょうがない、とスマホを勝手にいじってアラームの設定を10分後に設定する。(もちろん音量は最大にして)

名残惜しそうに暖かい布団から出るとハンガーにかけていたカーディガンを羽織り寝室を後にする。

「(今日は試合の日か)」

洗面所で顔を洗い、キッチンでヤカンに火をかける。
朝食を用意するため冷蔵庫を覗くと卵と牛乳しか入っていなかった。(昨日特売日なのに買い物をするの忘れてしまった)

「フレンチトーストでも作るか」

冷蔵庫からそれらを取り出すとボールに開け素早く混ぜる。
そこに砂糖を少し多目にいれてさらに混ぜる。
後は食パンに染み込ませて焼くだけだ。

なんてお手軽な作り方だろう。
有名ホテルは四時間くらいかけて染み込ませるらしいが、そんな時間をかけている暇はない。

ヤカンから湯気が出始めた頃、寝室の方からアラームの音が聞こえ始めた。
10秒ほど鳴るとそれは止まり、更に30秒ほどして部屋から一人の男が出てきた。
上半身に何も纏っていなくて寒くはないのだろうか。

「おはようございます」
「おはよう、」

寝癖のついた頭を掻きながら男は眠そうに碧を見る。

彼を見てキャーキャー騒いでいる女子たちはこの姿を見てなんと思うだろうか。

「朝食にしましょう。顔洗ってきてください」

碧の言葉に「んー」と返事をすると(これを返事と呼んでいいのか分からないが)男は洗面所へと消えていった。

その間に、碧はフライパンにバターをひき卵を染み込ませた食パンをじっくりと焼いていく。
砂糖の焼ける甘い香りがフワリと漂った。



「あ、フレンチトースト?」

五分ほどして、洗面所から帰ってきた男は先程の寝癖ボサボサマンではなく見慣れたいつもの髪型に戻っていた。
相変わらず上半身は裸だ。

「そうですよ。それより何か上に着たらどうですか」

風邪ひいても知りませんよ、と皿にそれらを盛り付けながら男に言う。

「なになに、碧ちゃんオレのこと心配してくれてるの?」

彼のチームメイトが彼のことを『ウザイ』と言うのがよくわかった。
本人はそれを自覚してわざとやっているのかそれとも無自覚なのか、どちらにしてもたちが悪い。

哀れみを、かつ怒りを込めて彼を見ると「恐いなあ、カッコいいお顔が台無しだよ」と笑顔で碧の額を小突き寝室へ上着を取りに去っていった。

半年ほど彼と一緒にいるが、未だに翻弄される。
何だか悔しい。


「そういえば」

ちゃんと服を着て出てきた彼が、ダイニングテーブルに座りながら思い出したかのように言葉を口にする。

「飛雄ちゃん、烏野らしいね」

『飛雄』という名前に碧は首をかしげ考えた。
自分の知り合いにそんな名前の男子は居ただろうか。

ダイニングテーブルに出来上がったフレンチトーストとコーヒーを置き彼の向かいに座ると、返事をしない碧に彼が「影山飛雄だよ」もう一度口を開いた。

「ああ、影山くんか。烏野ですよ」

そう言えばそんな名前だったかもしれない、と碧はうっすら残っている記憶を見つけた。

いただきます、と両手を合わせるとフレンチトーストにフォークをいれる。

「飛雄ちゃん元気?」
「たぶん元気です」

碧の言い方に少し疑問を抱いたが、彼はそれ以上詮索することはなかった。








朝食を食べ終え8時を回った頃、彼は学校の部活ジャージに着替え重たいスポーツバッグを玄関の脇に置き、新学年になって買ったお気に入りの靴に足を入れる。

「いつもいつもすいません」
「いいよ、それで碧ちゃんが元気になるなら」

靴ヒモを結び直すと立ち上がり、段差で同じくらいの高さになった彼女の頭を優しく撫でた。

「もっと頼ってもいいんだよ?」
「もう十分、頼りすぎてますよ」

そう言って笑う彼女の顔はどこか悲しげで、やっぱり自分では力不足なのかと少しだけ落胆するが彼女のすべてを知っているのは自分だけなのだと、彼女には自分しかいないのだと奮い起たせた。

「じゃ、何かあったらまた呼んで」
「ありがとうございます、及川さん」



Desiring too much



「おはようございます」

既に開いている体育館の入り口からひょっこり顔を出すと、そこには田中、菅原、そして日向と影山が揃っていた。
日向と影山に至っては汗をかいており、結構前からここにいたこが伺える。

「おはよー」
「はよっス」

みんな早いなあ、と下足を脱ぎ体育館用のシューズに履き替えると床がキュッと鳴った。

そのまま彼らの横を通りスコアボードなどを準備しようと体育館倉庫へ向かおうとするが、ふと、影山の前で足を止めた。

「影山くん」
「、なんスか?」
「元気?」
「?…元気っス」
「そう、良かった」

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