火曜日、午前11時


本日の放課後は青葉城西高校と練習試合を行う予定だ。

なのに烏野高校の王子、排球部の2年マネージャーの御輿碧は宮城を離れ東京へ来ていた。

「顔もっと近づけて目線はこっちで!」

フラッシュの光とシャッターの音が聞こえるこのスタジオの一番明るい舞台に彼女は立っていた。

いつものサラサラした色素の薄い髪はきっちりとセットされており、来ている服も真っ黒いジャージではなく今年の流行ものをしっかりと着こなしている。

相手役の女性モデルに優しく微笑む彼女の顔はもはや男性のそれで、この場にいる誰もが今彼女の性別を忘れているに違いない。

「15分休憩入りまーす!」

みんなは今四限目だろうか。
遠くにいるチームメイトの事を思いながら、スタッフに差し出されたペットボトルに口をつける。
冷たい液体が、碧の体を巡った。



They are growth phase



「御輿さん、この後スタッフで遅めのランチ行くんだけど、一緒に来る?」

午後1時頃、ようやく今日の撮影が終わった碧は目元の力を抜いた。
男役となると、どうしてもキリッとさせるために自然と目に力が入ってしまう。

今から部員たちにお土産を買って、新幹線に乗って、宮城に着くのは5時前くらいだろうか。
それから青葉城西まで行かなくてはいけないので、

「(ギリギリ間に合うか間に合わないか…)すいません、今日はもう宮城に帰らないといけないので…」

頭のなかで到着時刻の計算をすると、申し訳なさそうに眉と頭を下げる。
そんな彼女を見てスタッフ達は少し残念そうな顔をするが(特に女性スタッフは)碧が宮城からわざわざ駆けつけていると知っているので、それを制してまで連行しようとはしなかった。

「お疲れ様です」




――午後5時、宮城県某所

「(結構時間かかってしまった…)」

帰ってきた宮城の空気は、東京よりも幾分か冷たく感じた。
初夏ものの撮影をしていた碧の格好は涼しげというよりかは寒そうで、(むしろ寒い)ブルッと肩を震わせると東京土産の紙袋をギュッと握り直した。

とにかく早く青葉城西に行かねば。
下手したらもうすぐ終わってしまうのではないか、と携帯で時間を確認するとその長い足を目的地へ一生懸命動かし始めた。

「あれ、碧ちゃん?」

歩き始めてほんの数分。
突如名前を呼ばれそちらを見ると、よく見知った人物が意外そうにこちらを見ていた。

「及川さん」

それは青葉城西バレー部の主将である『及川透』で、碧の良き理解者でもある男だ。
本来なら学校で烏野と練習試合を行っているはずなのに、どうしてこんなところをほっつき歩いているのだろうか。

「ちょっと捻挫しちゃって病院いってきたんだー」

碧が首をかしげていると、それを察したのか及川がへにゃりと笑い足首を指差した。
捻挫だなんて、この時期に大丈夫なのかと思ったが、彼の様子を見る限り軽度のものなのだろう。

「碧ちゃんはどうしてここに?今日うちと練習試合でしょ?」
「今日は都内で朝から撮影だったんですよ」

彼と肩を並べて歩き出すと及川が碧の手に握られていた紙袋をひょいっと取り上げた。
そして代わりに、と言わんばかりに空いた彼女の手に自分の手を重ねる。

及川透はモテる。
彼の回りにも女子が絶えないからか、彼もまた女性の扱いには慣れていた。

碧にも他の華奢でフワフワした可愛らしい女子と同じ扱いをするのだが、

「(この絵面はさすがに……)」

今日は(今日も)女性モデルの相手役、つまり男性の役をやってきたわけで、メイクも服装も『男に見せようとして』合わせたものだ。

端から見たら男性同士が仲睦まじげに手を繋いでいる光景にしか見えない。
事実、すれ違う人たちがこちらをチラチラと見ている。

「及川さん、この格好で手を繋ぐのはさすがに誤解が…」
「え、いいよべつに。碧ちゃんとなら大歓迎」

空いた手でピースサインを作る及川に、碧は観念したかのようにひとつ笑うと、繋いだ指先に力を込めた。

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