どのくらい歩いただろうか。
世間話をしながらだったのであっという間に目的地についてしまった。
目の前に広がる学校(と思わしき建物)は私立だけあって烏野高校より幾分大きい。
高校というより大学に近いかもしれない。
「これだけ大きいと迷いそうですね」
「碧ちゃん方向音痴だからね」
「そ、そんなことないですよ!」
私服のまま校内に入るのは少し気が引けるが、着替えている時間も無さそうだし、そもそも着替えを持ってきていないので腹をくくり一歩、また一歩と及川に手を引かれ青葉城西高校の敷地を歩いていく。
校内なのに手は離さないのか、という疑問はどこかに吹っ飛んでしまっていた。
御輿碧は意外と真面目で意外と小心者だ。
暫くすると、体育館特有のシューズの擦れる音とボールの打ち付けられる音が聞こえてきた。
ボールの音の感じからして、これはきっとバレー部だろう。
チラリと窓の方を見ると、見慣れた坊主頭がいたような気がした。
「烏野は向こう側の扉から入った方が近いかな」
『第三体育館』と書かれている扉を潜ると、下駄箱で靴をはきかえる。
及川は碧の後方にある扉を指差した。
「オレはあっち側から入るね」
今度は少し遠くにある扉を指差すとひとつウインクし、及川は持っていた紙袋を碧に返した。
碧がありがとうございました、と頭を下げると彼は「今度の休み遊びにいこうね」とヒラヒラ手を振り彼女に背を向けて扉の方へと歩んでいった。
ここまで案内してくれたんだ。
遊びの一つや二つ、いつだって付き合う。
彼の背中に一つ笑いかけると、碧は及川の指差した方の扉を開ける。
彼の言った通りそちらは烏野コート側でちょうど第2セットが終了したようだった。
ベンチの回りに黒い塊ができている。
こんな中に私服姿の自分が入っていっていいのだろうか、と小心者の心がざわつき入り口付近で固まっていたら、パチリ、と灰色の頭と目があった。
彼は二、三瞬きをすると、そこにいる人物を理解したのか、ニッコリと笑みを見せこちらに来るよう手招きをする。
そんな彼の行動を見て、碧は小さく「お邪魔します」と呟くと黒の集団のもとへ足を進めた。
「遅くなりました」
先生と部員らにペコリと頭を下げると、澤村は「お、間に合ったのか」とニカッと笑って見せる。
田中に至っては手にしている紙袋に釘付けだ。
練習試合終わったら食べようね、と袋を軽く持ち上げると彼のやる気ゲージが上がったのか、なにやら咆哮してうるさい。
「烏野のOBですか?」
急に聞こえたアルトの声にそちらを見ると、日向が目を丸くさせてこちらを見ていた。
よく見ると日向だけではない、影山も月島も山口も『誰ですか』という目を碧に向けていた。
その可笑しな状況に、2、3年陣は肩を震わせている。
「御輿、碧です」
はて。
自分等の知っている御輿碧という人物はこんなに男らしかっただろうか。
そりゃ最初見たときこそは男と間違えたが、よく見ると線は細いし筋肉だって自分等と比べると全くついていない。
「あ、御輿さん!」
そこまで思考と目の前の人物を照らし合わせて、ようやく気がついた日向は驚きの声をあげる。
「今日休みだったんじゃ、」
「急いで帰ってきたよ〜。だから服装もメイクも撮影のときのまんま」
少し寒々しいね、と笑う碧に、1年陣は納得した。
だからこんなに男らしいのか。
「あ、御輿さん」
「ん?」
寒さからか、肌をさすっていると月島が彼女に自分のジャージを差し出した。
「寒いならどうぞ。大きいかもしてないですけど」
たった数日の付き合いだが、その行動が珍しいということだけは分かった。
彼女の中で(部員みんなの中で)月島という男は、毒舌で辛辣なことすぐに言う素直じゃない奴と位置付けられている。
そんな彼が自らのジャージを差し出すなんぞ、今日は雪でも降るのだろうか。
それともただ彼の機嫌が最高潮に良いのだろうか。
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