ピーッ!

青城のメンバーチェンジを告げる笛が鳴る。
交代するのは及川と7番のゼッケンをつけている大人しそうな子だ。
及川と交代だからセッターか、と碧は考えたが、このスコアでの交換なのできっと彼はピンチサーバーなのだろう。

試合で何度か彼のサーブを見たことがあるが、相手のチームを同情してしまうくらいにエグいものだった。
今からそれが仲間のもとに打たれると考えると、碧の心中は穏やかでない。

ボールを受け取った及川は定位置につくと、ピシッとコートの向かい側にいる月島を指さす。

一体何の事だか分からない烏野一同(もちろん月島も)は頭にクエスチョンマークを浮かべるが、ドッ、と重い音と共にサーブが打たれると、痛いくらいにその意味が分かった。

放たれた強烈なサーブは月島の腕に当たり、あさっての方向へと飛んでいく。

元々月島はレシーブが苦手だが、あのサーブを受け止めるのは誰だって難しい、と碧は眉間にシワを寄せた。

白い月島の腕が遠くから見ても分かるくらいに赤くなっていて痛々しい。

「うん、やっぱり。途中見てたけど…6番の君と5番の君、レシーブ苦手でしょ」

ニッコリと、碧に負けず劣らずの素敵な笑顔で月島と日向を見る及川だが、そこに爽やかさは無い。
あるのは加虐心だ。

「(叩くなら、折れるまで、か)」

いつか聞いた及川の座右の銘を思い出し、碧は一つため息をついた。

「じゃぁ…もう一本ね」

そう言って彼はまた月島目掛けてサーブを放つ。
スパイクのような威力なのに、コントロールは全くブレない。
さすがは青城の主将といったところか。

当然(と言ったら失礼だろうが)月島はそれを打ち返すことができず、またあらぬ方向へとボールを飛ばす。

「ヅッギィィ!」

碧は月島のメンタルを心配したが、友人である山口の方がメンタル的に瀕死であることに少し安堵した。

「ツッキーどんまい」

山口の悲痛な叫びに便乗して碧も彼を応援する。(悪ノリしてアダ名で呼んでしまった)
メンタルが強いと言えど、削れていないわけではない。

彼とパッチリ目が合うと手を振って激励する。
借りたジャージの袖が重力で肘の方までずり落ちた。

「おい!こら!大王様!おれも狙え!取ってやるよ!」

コート内でじたばたしながら及川へ言葉を吐き捨てる日向はまるでだだっ子のようだった。
自分が狙われないのが嫌なのか、はたまた月島が可哀想になってきたのか、どちらなのか定かではないが、

「大王様っ、」

恐らく『大王様』とは及川を指しているのだろう。
きっと影山が『王様』で、その先輩だから『大王様』と名付けたに違いない。

彼の素晴らしいネーミングセンスに碧は暫く肩を揺らした。

「(碧、ツボに入ったのかな)」

そんな碧を菅原は微笑ましく眺めていた。

「お前、みっともないから喚くなよ」
「なんだと!」

一方コートでは日向と月島が険悪なムードになっている。
日向に庇われたのが気にくわないのか、月島の眉間にはシワが寄っていた。

「バレーボールはなぁ!ネットの”コッチ側”にいる全員、もれなく『味方』なんだぞ!」

肩を震わせていた碧がようやく顔を上げると、先程まで緊迫していたコートの雰囲気が若干和らいでいた。

あの空気を言葉一つで変えてしまうなんて、自分にはできないことだ。
猪突猛進で考えることをあまりしない日向だが、そんな彼が言うと更に説得力がある。(後にオリジナルが田中だと知り再度納得した)
険しい表情をしていた澤村の顔にも、心なしか笑顔が見えた。

「よし、全体的に後ろに下がれ。月島はもう少しサイドラインによ寄れ」
「はい」

レシーブが苦手な月島の守備範囲を狭くして、逆にレシーブが得意な澤村の守備範囲を広くする作戦だろう。

月島が端に寄ったことにより、及川はサーブで彼を狙いづらくなるはず、

ダキュッ―!!

だった。

碧は心の中で及川に拍手を送る。

あんなに狭い範囲なのに、針の穴に糸を通すコントロールで月島の真正面へとサーブを決めた。
しかし、どうしてもコントロール重視になってしまうため、先程のソレよりは威力が落ちてしまう。

ドッ―!

威力が落ちたことにより、なんとかボールを打ち返した月島だが、それも『ようやく』といった感じだ。
ボールは影山(セッター)を通り越し青城側のコートへと飛んでいった。

「チャンスボール!」

青城の6番にトスが上がる。
ソレに真っ先に反応したのは日向だった。
彼は自慢の跳躍力を最大限に活用して、飛んだ。

バチィッ―!

ブロックとまではいかなかったが、ワンタッチだ。
チャンスはこちらへ巡ってきた。

ブロックした日向が着地した、と思いきや、彼はもう既に反対側のライトへ駆け出していた。
その動きは常人では簡単に行えるものではなく、まるで忍者を見ているようだった。

ドッ―!!

影山のパスは完全に日向を捉え、彼の放ったスパイクは綺麗に青城側コートへと突き刺さる。

あまりの出来事に一気に静まり返る体育館内。
審判も思わず見入ってしまっていた。

ピ…ピピーッ!

試合終了 セットカウント2−1

勝者:烏野高校

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