「サッ、と行ってスッ、とやってポン、だよ」

現在、レシーブが苦手な一年軍団に西谷が指導をしている。
考えるより感じろ派な彼の指導に、影山以外の一年が首を傾げていた。
もちろん、近くでそれを見ていた碧も首を傾げている。

「”本能で動く系”の奴は何言ってるのかさっぱり分からん」
「確かに」

隣で見ていた田中の呟きに、碧は思わず同意してしまった。
「そうですか?俺なんとなくわかりましたけど」

その隣にいた影山は周りとは違う意味で首を傾げている。
天才とは皆こうなのか、と少し呆れ気味に碧は影山と西谷を交互に見た。

「ちなみに、お前が説明するときも周りは何言ってるかわかってねぇからな」
「え、」

田中の言葉に少しショックを受けているような影山の表情が可愛らしくて、碧は思わず笑ってしまった。

また西谷たちの方を見ると、今度は背の高い月島に絡んでいる。(月島はとても迷惑そうな顔をしていた)

二人が並ぶと互いが互いに相乗させているようで、いつもより西谷が小さく見えたし、月島が大きく見えた。

西谷は、背こそは小さいがコートの中での(外でも比較的)存在感はすごく大きい。
彼が居るときと居ないときでは、安心感が全く違う。

「何にやけてんだよ」
「いや、西谷くんは相変わらず可愛いな、と思って」
「そうか」

彼がチームに戻ってきてくれた喜びに、碧の頬は自然と緩んでいた。
言葉こそはいつもの調子だったが、その裏に隠された意味を理解した田中は釣られて一緒に微笑んだ。

「あの、西谷さん」

西谷のレシーブ指導を受けていた日向が、何かを思い出したかのように動きを止めて彼を呼んだ。

「”旭さん”て誰ですか」

その人物の名を聞くと、西谷だけでなく体育館全体の雰囲気が変わった。

彼の大きな目は少し釣り上げられ、よく動く口元は少し硬くなったように感じる。

「烏野のエースだ…『一応』な」

その言葉を聞くと日向は小さく何かを呟き、考え込むように口を閉ざした。

先程まで一緒に騒いでいた日向が急におとなしくなり、西谷は首をかしげる。

「おれ、エースになりたいんです…!」

少しの沈黙のあと放ったその言葉は、はっきりと、体育館に響き渡った。
影山は『またか』その発言に呆れているが、彼は気にせず言葉を続ける。

「テレビでエースの”小さな巨人”見てから、絶対ああいう風になるって思って烏野来ました!」

迷いなく、真っ直ぐ西谷を見つめて彼は言った。
『エース』と呼ばれることの多いウィングスパイカーやミドルブロッカー、これらのポディションは比較的背の高い選手が多い。
ましてやエースと呼ばれるくらいになれば尚更だ。

西谷は自分と同じくらいの日向がエースを目指す事に少しだけ疑問をいだいたようだったが、

「いいなお前!かっこいいからやりてぇんだよな!いいぞいいぞなれなれエースなれ!」

それは本当に少しだけで、バシン!と日向の腕を叩いてその意気込みを賞賛する。

「今のエースより全然頼もしいじゃねぇか!」

それと共に、現エースへの皮肉も忘れない。(彼がもしこの場に居たとしても、このセリフは口にしていたかもしれない)

「(西谷くんの中では、やっぱり旭さんがエースなんだ)」

きっと無意識に出てきた彼の言葉に、碧は何だか嬉しくなった。
あれだけ言い争って喧嘩をして、それでも彼の中のエースはあの人ただ一人なのか、と思うと歓心すると共に嫉妬のような感情さえ芽生えた。

また騒がしくなった体育館に碧は目を細めたが、それの意図するものは、



過ぎる日々は有限のもの
残りが幾つなのかは、知らない。

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