「んローリングッサンダアアアアアアッ!!!」
響き渡る声。
静まり返る体育館。
呆気にとられる部員。
満足げな顔で戻る西谷。
今日も烏野高校排球部は平和なようで何よりです。
a little
「…あ、うん。ナイスレシーブ!」
西谷の訳の分からない唐突な必殺技と思われる叫び声に、一同呆気にとられ時が止まったようだった。
フォローに定評のある菅原でさえ、その能力を発揮できないでいる。
「普通の回転レシーブじゃねぇか!”サンダー”どこいった!」
最初に動き出したのは田中だった。
笑いながら西谷を指差し、完全に彼をバカにしている。
「なんで叫んだんですか?」
「何…いまの…」
「ブフーっ!」
それを発端に次々と時が動き出した。
影山は今の行為を只単に疑問に感じ、月島は完全にドン引き、山口は笑いを堪えられず吹き出している。
「影山・月島・山口、まとめて説教してやる!屈め!いや座れ!俺の目線より下に来い!」
そんな彼らの反応を見た西谷は怒号を響かせる。
ただ、日向だけは目をキラキラさせて西谷を見ていた。
自分の苦手なレシーブを綺麗に決めて、尚且つ一回転までしてしまうのだから憧れの眼差しになるのは必然的だ。
「(日向くんと夕くんの2ショットいいなぁ。可愛い、間に挟まりたい、一緒に手繋いで買い物行きたい。)」
碧はそんな西谷と日向の小さい組を見て良からぬことを考えている。
もちろん顔には出していない。
表情はいつものキリッとしたイケメン顔だ。
「碧、いま絶対変なこと考えてたでしょ」
「え?、そんなことないですよ」
「顔に書いてあるよ」
近くにいた菅原にじっと見られていると思ったら、いたずらっ子のような笑みでツンと頬をつつかれた。
端から見たらまるで恋人同士のような雰囲気だが、彼女らはそんな関係ではない。(もしかしたらそれ以上かもしれない)
ガラララッ――――
「お疲れさまー」
そんな騒ぎの中、顧問の武田が体育館の扉を開けた。
一同の視線がそちらに集まり、澤村の号令と共に彼のもとに一斉に駆け出す。
碧も菅原の隣に並び、彼らと同じように背筋を伸ばした。
「今年もみんなやるんだよね?G・W(ゴールデンウィーク)合宿!!」
そう言えば去年もやったな、と碧はちょうど一年前の事を思い返した。
どこから情報が漏れたのか、合宿所に女子が集まり大変なことになったのを鮮明に思い出し顔をひきつらせる。
「それでね、」
そわそわと、何やら嬉しさをこらえるかのように武田はメガネをくいっ、と上げて彼らに言い放った。
「合宿最終日、練習試合を組めました!!」
ここにいる全員に確かに聞こえるよう武田は声を張ると、その言葉に部員の誰もが目を丸くした。
「武ちゃん頼もしいな!」
「あ、相手は…」
土下座だけが取り柄かと思ったがそうでもないようだ。
一瞬ざわりと沸き立った体育館内が静かになったことを確認すると、武田はスゥ、っと一呼吸置いて静かに口を開いた。
「東京の古豪、『音駒高校』」
『東京』という単語に、1生は驚いたが、2、3年生は『音駒』という単語にピクリと反応を示した。
碧も聞いたことのあるその名前を、必死に脳内で検索をかける。
「”音駒”ってあの、ずーっと烏野と因縁のライバルだったっていう…」
ああ、そうだ。
昔、烏養監督が現役で烏野が全国大会へ出場していた頃、その音駒高校とよく練習試合をしていたと聞いたことがある。
確か通称、
「『ネコ』」
「その通り」
思わず口に出た言葉に、武田は深く頷いた。
「名勝負、”ネコ対烏!ゴミ捨て場の決戦”つって」
「それ、本当に名勝負だったんですか」
当時の練習試合風景を揶揄した言葉が明らかに悪口にしか聞こえなく、さすがの碧も苦笑いを浮かべる。
誰がつけたかは知らないが、もう少しまともな表現はなかったのだろうか。
「でも、暫く接点なかったのにどうして今?」
澤村の言うとおり、確か烏養監督が引退してからそれまで接点のあった学校と疎遠になってしまい、それ故に烏野は『飛べない烏』と言われていたはずだ。
「うん、詳しいことはまたあとで話すけど、音駒高校っていう好敵手の存在を聞いてね、どうしても”因縁の再戦”をやりたかったんだ」
そう言った彼の顔はいつもの頼りないものとは違い、一種の賭けに出た、覚悟を決めた男の表情をしていた。
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