衝撃の昼休みから数時間。
体育館でまた彼と顔を合わせたが、いつも通りに接してきたため碧もあの事は忘れていつも通り接するようにした。
自分一人だけモヤモヤしているなんてなんだか悔しいし、『王子』と呼ばれている以上、それらしく振る舞おうではないか。

「そういやノヤっさん、こっち来れない間の『特訓』てなにやってたんだ?」

そんな事を考えながら月島を盗みていると、隣にいる田中と西谷の会話が耳に入った。

「んー。主にブロックフォローだな。まだうまくできねぇんだけど、これがちゃんとできればお前らも安心してスパイク打てるだろ」

その言葉に彼を見ると、至るところに痣があった。
古いものから新しいものまで、その痣は紛れもない努力の勲章だ。

「西谷くんて、ホントかっこいいよね」

そういう所、好き。
と碧が軽く笑って言うと、西谷は一瞬目を見開きそしてニカリと笑って「さんきゅ!」と親指を立てた。
碧が言うからこの反応であり、きっと清水あたりが呟いたら全く違う反応を見せるのだろう。
碧そんな彼の様子が容易に想像できて思わず口元が緩んでしまった。

「集ご―、えっ?!」

ガララッ、と体育館の重い扉を引く音と、聞き馴染みのある「お疲れ様」という声が聞こえると、澤村はすぐさま集合の号令をかけた。
いつもだったら部員が一斉に集まり一礼を行うが、今日は何やら違う。
頼りなさげな彼の隣には、言い方は悪いが輩のような、武田とは接点がまるで無さそうな男性が立っていた。

「紹介します!」

高らかに武田が声をあげると、隣にいた彼は一歩前に出る。

「今日からコーチをお願いする、烏養くんです!」

いきなり現れたコーチの存在に、部員一同は驚きを隠せないでいる。
碧だってそうだ。
いや、正確には『コーチが来た』と言うよりかは、『烏養コーチと呼ばれている坂ノ下商店の兄ちゃんが来た』事に驚いていると言ったほうが正しいかもしれない。

どうやら彼はこの烏野高校のOBで、『坂ノ下』とは母方の名字らしい。
まさに灯台下暗し。

「時間がねぇんださっさとやるぞ!お前らがどんな感じかみてぇから6時半から試合《ゲーム》な!」

挨拶もそこそこに、烏養は早速コーチらしく振る舞っている。
いきなり試合《ゲーム》ということにも驚いたが、相手が既に召集されているということにも驚いた。
なんという早さだろう。


数十分後、彼がいっていた通り、対戦相手と思わしき人物たちが体育館にやって来た。
明らかに高校生ではないその人たちを見ると、碧は少し驚いた。
町内会チームを呼んだ、と言っていたのでもう少しおじさんが来るのかと想像していたが全員20代そこそこに見える。
正直、高校生とおじさんでは体力に差がありすぎるのでどうなるのだろうと懸念していたが、その心配は無いようだ。

「よーし、そろそろ始めるぞー!」

烏養の号令により各々コートへと入っていく選手たちだが、町内会チームの人数が明らかに少ない。
それもそのはず。
彼らは社会人で、平日のこの時間にこれだけ集まれば良い方だろう。

どうしたものか、と唸っている烏養の目に、コートに入らず立ち尽くしている西谷が目に入った。

「何だお前、どうした」
「、!」
「あ、すいません、そいつはちょっと…」

どう返事をして良いか戸惑った西谷に澤村が慌ててそちらへ駆け寄る。

「なんだ、訳ありか?怪我か?」
「いやぁ…そういうんじゃなくて…」

事情を知らない人なら当たり前の反応だろう。

「彼、町内会チームに入れて頂いてもいいですか?」
「構わないが…」
「ああ、それなら…」

西谷の肩をポンと叩きながら碧が烏養に提案すると、彼も澤村もそれに納得してくれた。
西谷が申し訳なさそうに碧の方をちらりと見ると、碧は優しく笑い「いってらっしゃい」の意を込めて彼の背中をポンポンと叩く。

我が子を送り出す母になったようだ、と西谷の背を見て思っていると、今度は碧の肩が叩かれた。

「お前も町内会チームに入ってくれ」
「、え?」

一瞬、なにが起きたのか分からなかった。
肩を叩いた烏養も、固まってる碧を見て首をかしげる。

「あ、あの、烏養さん…」
「あ?なんだ?」
「コイツはマネージャーで…」
「なに?男子マネか、珍しいな!」

澤村も事を理解したのか、すかさずフォローに入ってくれたのは良いもの、その意図は半分しか届いていないようだ。

「マネージャーですけど…」
「珍しくない普通の女子マネです」

女子、マネ?と烏養の思考は停止したようだった。
烏養だけではない。
碧のことを知らない町内会チーム全員、時が止まったかのようにピタリと動きを止めてしまった。

「「ええええ!?」」

そして直ぐに驚きの声に包まれる。
何度も言うが、ジャージ着用時の碧を女子だと見極めるのは難易度がかなり高い。

「僕は直ぐに分かったけどね」
「何か言った?ツッキー」
「なんでも」

見極められるのなんてほんの一握り、と言うか、今までに二人しか存在していない。(もう一人は言わずもがな、あの大王様だ)

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