「あ!旭さんだ!」

まだコート内に驚きの余韻が漂っているなか、今度は現役高校生チームを驚かせる一言が日向の口から発せられた。
その人物の名に、ピクリ、反対のコートに向かおうとしていた西谷が反応する。

彼が呼んだ『旭さん』とは、今まで訳あって部活には顔を出していなかったが、れっきとした烏野のエースだ。
碧も久しぶりにその名を聞き、胸が締め付けられるような感覚を覚えた。

「なんだ遅刻かナメてんのかポディションどこだ!」

彼らの深い深い事情など知るよしもない烏養が扉から顔を出し、『旭さん』こと東峰旭に怒号を浴びせる。

「ぅ、WS《ウィングスパイカー》です…」

その気迫に押されて、というか彼は実は生粋のビビりなので、いきなり年上の人に怒鳴られ何も考えず条件反射で答えてしまったのだろう。
彼の答えを聞いた烏養は、人数が足りなかったからちょうどいい、と東峰に町内会チームへ入るよう指示した。
まさか部活復帰がこんな形になるなんて、誰が想像しただろうか。
一歩、東峰が体育館内に足を踏み入れると皆の視線がそちらに集まる。
あんなに煩かったこの場が、シン、と静まり返った。

どれだけ、そのジャージに袖を通すことを躊躇っただろう。
どれだけ、この一歩に勇気が要っただろう。
どれだけ、彼らはこの時を待ちわびただろう。

夕日を浴びた彼の姿は、碧の目にはこの間よりもとてもとても大きく見えた。
それにとても嬉しくもなり、なぜか酷く悲しくもなった。

「あとはセッターか…お前らの方から一人セッター貸してくれ」

烏養のその言葉に、影山と菅原は少し困惑した様子で口をつぐむ。
そして動いたのは菅原だった。

一歩、また一歩と町内会チームの方へ移動する彼を見た影山は、どこか納得のいかない様子だった。

「俺に譲る、とかじゃないですよね」

ピタリと、菅原の足が止まった。

「俺は…」

何か迷ったように菅原は少し口ごもると、自身を落ち着かせるように一つ息を吐いた。

「俺は、影山が入ってきて、正セッター争いをしてやるって反面、どっかで…ホッとしていた気がする」

菅原の悲痛な表情に、皆の顔も崩れていく。
しかし、特に菅原と仲の良かった碧は、彼の言葉に眉一つ動かさず黙って聞いていた。
碧は知っている。
彼の葛藤を、喜びを、悔しさを。
さあ、楽になってしまいなさい。
何もかも吐露して、その不本意で作りあげた仮面を取ってしまいなさい。

「圧倒的な実力の影山の陰に隠れて、安心…していたんだ…!」

それは懺悔しているようにも聞こえた。
自身を責めているようにも聞こえた。

「スパイクがブロックに捕まる瞬間を考えると今も怖い、」

けど、と俯いていた顔をパッと上げ、菅原は東峰を見据える。
そしてはっきりと、彼に伝えた。

「もう一度トスを上げさせてくれ、旭」



ほんのすこし
ほんの少しの勇気で、世界は大きく変わる

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