創作小話
海外短編 エズ=ハウトン「母さんは、どうして父さんと離婚したの?」
今日は、母親の精神状態が安定しているように思う。いつもは炯々とぎらついている瞳が落ち着いていて、エズは自然と胸を撫で下ろした。
「そうねえ……」
そうして少し考えてから、ふふふと笑って言った。
「きっとね、ぽかぽか陽気の晴れた日に、私はお昼寝がしたいのに、パパは外へ遊びに出たがるからよ」
きょとり、とエズは瞳を瞬かせた。それからこてりと首を傾げると、不思議そうに尋ねた。
「交代じゃだめなの」
「だめなの。パパもママも頑固だから」
間髪入れずに答えるものだから、エズは少なからず面食らった。母親は、にこにこと笑っている。
「エズはどうする?」
逆に問われて、エズは瞬きをひとつ。
「うんと好きな子と、意見が分かれちゃったら……。ああ、でもきっと、エズなら交代にしてくれると思うけれど……」
ふふふ、と優しく笑う母親に、エズはポケットからコインを取り出した。
「んーと。おれは、これで決める」
一度目の前で揺らしてから、キンッ! と親指で跳ね上げる。宙で安定感をもって回転するそれは、そのままエズの手の甲へ吸い付くように降りていく。コインが、どちらかの面を上にして手の甲にひたりとくっつくその瞬間、パシンともう片方の手が手の甲に蓋をした。
エズはパッと顔を上げる。
「どっちが出ると思う?
〈お昼寝/表〉か、〈お外/裏〉か」
ちょっぴり意地の悪い顔で尋ねるエズに、母親は驚いたように目を見開いた。
「エズ、コイントスなんてどこで覚えてきたの?」
「夢で教えてもらった」
「夢で?」
母親が若干、怪訝そうに眉を潜めるのを見て、エズはそっと話題を逸らす。
「ね。母さんは、どっちに賭ける」
**
エズ=ハウトンがその夢を見始めたのは、3年くらい前からである。
前方と後方にずうっと伸びる長い廊下、踏み心地の良い真っ赤な絨毯、左右に等間隔で並ぶ扉。目が眩むほどの照明に、きらきらとした装飾。
困惑よりも興味が勝ったエズは、そっと一歩踏み出し――
「お客さま、入場料はお支払いですか」
ギョッとして振り返った。
エズと同じ10歳……もしくは12歳くらいの、美しい顔をした少年が立っている。背丈はそこそこ、アンティークゴールドの髪に、エルムグリーンの瞳。じっと見つめてくる少年に、エズはわずかに後ずさった。
「……知らないよ、入場料なんて」
そう返せば、目の前の少年は「おやっ」という顔をした。
「それは……」
言いながら、何かを思案する様子の少年に、エズはそうっと目を細めた。夢でもなんでも、ここがどこか問おうと口を開く。
その、瞬間。
「夢の迷い子かな」
真後ろ、上方。
とん、と両肩に手を置かれたエズは、驚いて真上を見る。
「オーナー」
少年も同じく、呆然としたような、驚いた声を上げた。
エズは、至近距離でその“オーナー”とやらを観察した。歳は20代後半くらい、髪は艶やかな黒……いや、ディープロイヤルパープルと言った方が近いだろうか。そして瞳は――
「あ、れ」
「……そんなに見つめられると、照れてしまうね」
エズの視界がぐるりと回る。はたと瞬きをすると、次には少年とオーナーが話をしていた。
「〈アンティ〉。今後、彼はVIP対応でいいよ」
「わかりました」
「〈ナイン〉は?」
「ポーカーで大勝利です。彼は運命力があります」
「そう、やはり彼は強いね。斜に構えたような態度が、相手のレイズを誘う」
「ああ、オーナー。今日は〈サヴェイラ〉が動きました」
「うん。確認しておくね」
エズにとってはさっぱりな内容であったが、おそらくこの建物内の人物について話してるのだろうなと考えた。〈ナイン〉という名詞を、“彼”と呼んでいるのだから。
“オーナー”がエズを振り返る。
「おいで、少年。きみに、簡単な賭けを教えよう」
2020/10/11
<前 | back | 次>
▷ Memo
▷ Works
▷ Special thanks(敬称略)
▷ 動作確認
win10:Chrome
iphone7:Safari
iphone7:Safari