09

althaea0rosea

 身体中の全神経が絆されたように、熱くて、熱くて、とろけそうだ。

 そうするのが好きなのか、それとも体勢的に楽だからそうしているのか、やっぱり後ろから抱きしめるように私の体を拘束して、足の間の、あそこ、に、中指を、すべらせている。
 いつのまにか、自分でも知らないうちに糸を引くほど濡れていて、またパニックになった。私の体、へんになっちゃった。
「やだ、やだ……」
「いややない」
「も、それいいから……っ」
「うるさいお口はこうやで」
 また。顎を持たれて後ろを向かされ、口を塞がれた。当然その間にも指は動いて、敏感なところに優しい刺激を与えている。胸を触られていた時とは比べ物にならないほど、体が動いた。足を閉じても太ももの隙間は埋まることなく、チリさんの手は自由なままだ。
「ん、や、だぁ……へ、へん、に、なっちゃう……っ」
「変やないよ。可愛い体しとる」
 これならさっきの方がマシだった。自分のじゃなくなったみたいに全身がふわふわして、お空に飛んでいきそうになったから、チリさんの腕をぎゅっと握る。無意識に爪を立てても、怒られなかった。そればかりか、本人はとっても楽しそうだ。
「きもちいい?」
「ち、ちが、う……っ」
「怖がらんでええよ。すぐに良くなる。変なとこなんて何一つない。このチリちゃんにまかせてや」
 何言ってるの、ぜんぜんよくない。へんなことばかり。こわい。
「気になるんならチリちゃんの顔見てて」
「……っ、うう」
「こわい?でも、痛くないやろ?」
「……う、ん」
「な?なら、あと少しだけ……気張れる?」
 耳元で囁かれ、背中がぞくぞくと震えた。今でいっぱいいっぱいなのに、がんばれる?なんて嫌な質問。でも少しだけ?本当に少しだけ?……少しだけ、なら。
「えらい子やね」
 口を閉じたことを肯定と認めて、頭を撫でてきた。こんなふうに誰かに褒められたのは初めてのことで、少し嬉しかった。

 とろとろのへんな液体をあそこに塗りたくる中指。……と、薬指も増えた。その二本の指はしばらくの間ただ上下に動くだけだったけど、そこから徐々に上の方へきた瞬間に、勝手に足が浮いた。びくっとふるえた。
「っあ、え……っ?」
「ここな、女の子の敏感なとこ」
 ぜんぶ、びんかんだったけど?
 でも確かに、そこの付近では今までとは比べ物にならないくらい強い刺激が私を待ち受けていた。反応をみながら、ゆっくりと時間をかけてほぐしていくチリさんの指。だんだん、確実にそこの近くを攻められている感覚がする。
「……や、やだぁ……っ」
「嫌やない」
「……ぅ、……」
 今日は何度このやり取りを交わしたんだろう。もう嫌がるのも嫌になってくる。
 でもそうでもしないとどうにかってしまいそうで、断続的に強くなる刺激に頭を振った。このひと、ちょっと楽しんでる。
「ぁ、あ……っひゃ、う……っ」
「かわいいなぁ」
 だんだんと頭がぼんやりとしてきた。さっきので涙腺がゆるくなり、涙が出るのは当たり前。へんな感覚と同時に、このままどうなってしまうんだろうという恐怖心が芽生えた。
 チリさんの服を掴んだ。
「や、だ、……こ、こわい……っ、こわい、い……」
「怖くない、怖くない」
 暴れる私の胴体に、チリさんの腕が力強く巻きついてきた。
「っ、うぇ、……ひっく、やだ、やだぁ……っ」
「一人やないよ。チリちゃんがちゃんと見てるから」

 指をぐぐ、と押し付けられたところで、
 頭が真っ白になった。
「ん、……っ〜〜〜!っはぁ、……っぁ」
 な、なあに、いまの?足ががくがく震えて、一瞬意識が飛んだかと思った。これまで私の体に現れていた反応の中で、群を抜いて様子が違った。呆然とする私に、チリさんは頭を撫でて頬ずりしてくる。
「いい子、いい子。今の感覚、忘れるんやないで」
 私の足、未だにがくがく震えてる。チリさんの指は少し名残惜しそうに離れていった。濡れたままの手で太ももをなでてくる。
「……ぅ、あ……」
 おわった……のかな。チリさんはゆっくり瞬きを繰り返す私の体を寝かせると、そのまま抱き枕みたいに抱きしめて、しばらく何も言わずに寄り添い、頭を撫でていた。
 あたたかかった。

 おちていく感覚がした。





「チリさん……ま、待って」
「ん?」
「その……、あの……。……き、今日は、いつ帰ってきますか」
 お仕事へ向かうチリさんは、たまに何も言わずに出ていくことがある。そういう時は決まって私が寝過ごしている時か、寝ぼけている時なんだけど。
 準備する物音にうっすらを目を開けて、寝癖を付けたまま玄関へ向かうと、チリさんは上着を肩に担いでドアノブに手をかけたところだった。
「んー、まあ、太陽が沈んだ頃やな」
 ……ってその時は言っていたのに、窓の外が真っ暗になってもチリさんは一向に帰ってこない。ごはんも一人で食べてしまった。お風呂も入った。待ちくたびれた。やることがない。
「……」
 ねむい。

 ようやく玄関の扉が開いたのは、リビングのソファーのチリさんの席で体育座りをしてうとうとしていた時で。気配もなく背後に近づいていたチリさんに、頭からジャケットを被せられてハッとした。
「……あ、お、おかえりなさい」
「ただいま」
「おそかった、ですね」
「夜になるって言うたやろ」
「……もう日付こえてるもん」
「夜は夜やもん」
 そうは言っても、おそすぎるもん。「日没する頃」って言い方してたじゃん。
 チリさんから受け取ったジャケットを抱きしめていたら、あっちの方でポケットに片手を突っ込み、片手を広げながら「本物はこっちやで」と言うチリさん。立ち上がっておそるおそる近づいたら、ぎゅうう、と片腕で抱きしめられた。わあ。
「随分と甘え上手になったなぁ」
「……べつに、甘えてないもん」
「ふーん」
 一度離れたチリさんは、私の顔の前で人差し指をくいくいっと動かした。それにつられて上を向いたら、唇を塞がれた。
 ちゅう、された。
「……う」
「おまたせ。ほな、もう寝る時間やで」
 手を引かれて寝室へ。これまでは入れなかった、チリさんの寝室。もう一緒に寝てるからほとんど自分の部屋だ。
 ベッドに入りふとんをかぶったら、チリさんはお仕事着のままへりに腰をおろす。
「まだ、ねないの?」
「その前に、風呂入らせて。小腹も空いたわ」
「ふーん」
 ふいっと反対側の方を向いて顔のところまでふとんをひっぱる。目を閉じたところで、こめかみのところに柔らかいのが押し付けられた。チリさんの優しい弾丸は、それだけで待ちくたびれた不満などかき消し、私の心を癒し撃ち抜いた。


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