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althaea0rosea

チリさんは私のことを好いてくれている。
……それも、かなり過激なくらい。だから私が他の人と仲良くすると、嫉妬して、こうなる。
でもチリさん自身もモテるから、人と触れ合う機会はそれなりに多い。どこからどこまでが知り合いのラインで、どこからが浮気のラインかは比較的常識の範囲内でしっかりと判断できる人だ。
それなのに、チリさんがこんなにも我を忘れてしまうのは……、この私が、、、、その越えてはいけないラインを、走り幅跳びするみたいに思いっきり飛び越してしまうからだ。……それも、結構な頻度で。

たとえば。昨日は出会い系で知り合った女の子たちに声をかけて、、、、、、ラブホテルに行った。いわゆる女子会というやつ。
先週は、とある同僚に好意を寄せているという後輩に声をかけて、、、、、、相談がてら一日中ショッピングに付き合った。(夜は家に泊めた。)
その前は、彼氏に振られたばかりで傷心中の先輩に声をかけて、、、、、、一日中気分転換のポケモンバトルに付き合った。(夜は家に泊めた。)
その前は。その前は。その前は……。

チリさんは自分以外の誰かとプライベートでお出かけをすると浮気になる、と言い張る。
つまりこれ、全部アウト。
そして、ほとんどの場合でかかさず寝泊まりをしているから、アウトを通り越してもう犯罪級の所業である。あのね、私ってね、ここだけの話、女の子を誘惑するのが得意なんだよねぇ。特にノンケの子を目覚めさせるのが、はちゃめちゃに大好き。昨日もそれ、やってきた。
チリさんは、そんな私のことが心の底から許せないみたい。チリさんは、本当は私のことを独占したいと思っているみたい。そんなの、可愛すぎ。
弄ぶしか、ないじゃない!
だから、色んな女の子に手を出して……わざと足跡がつくように、バレるように手を出して、心の中でほくそ笑みながらチリさんの顔色を伺う的な、そんな生活を繰り返していたら……。
「……あはあは、あはは」
チリさん、想像以上に怒り狂わされて、、、、、、ヤンデレみたいになっちゃった。あ〜〜〜ん!可愛い可愛い!もっと好きになっちゃう、そんなの!


洗面台で口のなかを綺麗にしている間に、汚れたマットレスは消臭剤塗れでベランダに放り出されていた。たぶん、明日にはゴミ捨て場行きだろう。寝るところ無くなっちゃったね……じゃあ今夜は私のお家かな?リビングのソファーで静かに項垂れるチリさんの背中を、ぎゅうっと抱きしめた。
「ね、チリさんだいすき。もっとして」
「……このクソビッチ、誰にでも愛嬌振り撒いとったら、いつか背中刺されんで」
にた〜っと笑う私。もうさっきまでのことは忘れたように、テンションMAXで後ろから顔を覗き込んだ。
「くふ、えへへ。何、言ってるの?私を殺していいのは、チリさんだけなんでしょ?私が他の人に殺されるなんて、許すの?許さないよね?ほらぁ、チリさんが、他の人から必死になって私を守ってくれるんでしょ?じゃあ、何も問題ないじゃない」
「……頭沸いとるんか」
そんな、今更過ぎるツッコミ入れちゃやーよ。いつものキレはどうしたの?
「えへへっ、チリさん、もう話終わった?じゃあはやく続きしよーよ、ね?」
ソファーの上を移動して、チリさんの太ももの上にまたがった。首の裏に両腕をひっかけて、鼻と鼻がすれすれの位置のところでじぃーっと見つめたら、チリさんは一度顔を逸らして隠す素振りもなく、チィ、と盛大な舌打ちをした。
またこちらへ向き直ったかと思えば、不機嫌な顔のまま首筋にかぶりついてくる。なんだ、口にはしてくれないのね。吐いたからかな。なんでもいいけど。相変わらず容赦がないな。
「っう、……いた、っ」
私が痛がるのなんか少しも気にせず、しばらくの間がじがじと歯を食い込ませたあと。チリさんは恥ずかしげもなく、唾液をわーっと垂らしながらべーっと舌を出した。怖い顔なのに、上目遣いであっかんべーしてる。かわいいなぁ。怖い顔なのに、かわいいね。


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