04

althaea0rosea

「サスペンダーとネクタイとベルト、どれ?」
「……なあに?」
「どれに縛られたいんや」
「あー……あー……。また新しいこと考えちゃって。うーん、その中だったら、あんまり痛くないやつかなぁ」

………………ね?

おかしいって、思うでしょ?こんなことを尋ねられたら、は?何言ってるの?って普通は思うはず。
けれど生憎のこと、私はあのチリさんも手を焼くほどのアブノーマルな人間でして。今だって他に聞くべきことがあるだろうに、まず一番に「あんまり痛くないやつ」ってもう……馬鹿じゃないの?でも、チリさんがしたいことは体を張って付き合ってあげるのが恋人の私に生涯課された責任、と言いますか。他でもない私に求められている時点で、応えてあげたくなってしまう。

先日みたいに、大激怒した時のチリさんは無断で過激なプレイを迫ってくることがあるけど、大抵の場合はこうして前もって教えてくれるから心の準備ができる。
今日はどんなふうに私のことを可愛がってくれるのかな……なんて、あのあと二人で一緒に選んだチリさんの新品のふかふかベッドの上で、わくわくしながら待っていたら。
「それって……」
さっきの選択肢にはなかった、銀色の手錠が急に登場した。ジャラジャラ、金属音を鳴らしながらチリさんは片手でそれを振り回している。なんだかご機嫌な感じでにこにこ笑っててかわいいけど、どうしたんだろう?
「なまえ、なまえ。手ぇ貸して」
「はあい」
ハテナを浮かべながらも言われた通りに両手を差し出したら、ガシャンと両手首ごとはめられた。タイホされちゃった。
「これ、なあに?」
「手錠。見たまんまや」
「さっきの質問なんだったの?」
「余興や、余興。前フリ的な」
ああ、なんだ。聞いただけだったのね。なんじゃそりゃ。
チリさんはそれから、手錠の間の鎖のところにもうひとつ別の手錠をひっかけて、反対側をベッドの柵に繋いだ。無理やり引っ張られたから釣り上げられたコイキングみたいな体勢でベッドに倒れ込んだ私。
ギシギシ言わせながら同じようにベッドに乗りあがってくるチリさんは、手錠の鍵をベッドサイドの棚の上に置いた。がんばったら私にも届く範囲の位置に分かるように置いてくれたということは、今日は優しい日なのかもしれない。
拘束されながら優しいなんて、変な感じだけども。
「最初っからこうしときゃよかったんよ。最初っから、どこにも出さずに閉じ込めとったら何の心配事もあれへんもんな」
「笑顔で何言ってるの?」
私のほっぺたを手のひらでむにむにしながら、まるでそれが世紀の大発見であるかのようにるんるんと話すチリさん。上から覆い被さるように足を伸ばして、ちゅ、ちゅ、と可愛いキスをしてくる。くすぐったい。
「なまえはもう一生、チリちゃん家から出られへんで」
「お仕事があるから、それは難しいよ」
「辞表届ならもう受理されとる」
「あええ?」
どういうこと?私、書いた覚えないけど?お仕事やめたいと思ったことはあっても、やめようと思ったことなんてないのに。チリさんが代わりに出したの?いやいや。本人以外無効に決まってるでしょ。トップが許すはずないもん。
「なまえの上司、誰や?」
「え?チリさん」
「辞表届、最初に出すんは、誰や?」
「えっと、チリさん……」
「ほな。もう受け取ったからな」
「???」
チリさんは本気で言っているのかもしれないけど、そうではなく普通にカン違いしている可能性もあることを信じたいので、あとでちゃんと人事の人に確認しておかないと。
しばらくキスをしたあと、ごろんと隣に寝そべってくるチリさん。ぎゅうって抱きしめたいのに、手錠があるから無理だった。そんな私の代わりに、チリさんは抱き枕みたいに抱きしめてくれる。あったかいなぁ。
「なまえって、可愛いやん」
「え?あ、ありがとう。うれしい」
「可愛いから、モテるやん」
「え?そうかなぁ……」
「よく職場の男どもから声かけられとるやん」
「それは、お仕事の話でしょ?モテるだなんて別にそんなことないと思うけど。ていうか、男なんて眼中に無いし」
「あいつらの目ェ見てみ?絶対なまえのこと狙っとるし。チリちゃんそれがムカつくねん。なまえはチリちゃんのやもん。せやから男どもみんな殺したろかって思うけど、それやったらやったで、女しかおらんくなるとなまえにとったらパラダイスみたいなもんやん。もっとダルいやん、そんなん。せやから、もう世界で二人きりになるしか心安まることないで、ほんま」
「なんて?」
今のチリさんは早口じゃなくてゆったりした口調だったのに、何を言っているのか聞き取れなかった。でも聞き返しても二度同じことは言ってくれず、そのままの流れで服に手を入れられたから、もう諦めた。お腹とか胸とか、素肌に直接手を滑らせてくる。
「なまえ、太った?」
「ええっ、そんなことないよ。……たぶん」
「チリちゃんと食べるご飯、美味いんやろ?」
「それは、そうだけど」
「これからもっと、いい具合にたっぷたぷに肥えさせたるから、いっぱい食うんやで。むちむちなってな」
「言い方やだ」
体の色んなところを触られたらもう、私のあそこが反応してさっそく濡れてきた。期待してる分、体は正直なのだ。チリさんも頃合を見計らって、下着の上からではなく最初から中に手を入れてくる。とろとろの液体を指に絡ませ、優しく優しく撫でてくる。同時に、反対の手で腕枕をしてくれるから、きゅんきゅんしてしまう。
「……ん、……これ、すき……」
「せやろ。かわいいなまえ。もっとよくしたるからな」
やっぱり。今日のチリさんはとことん優しいチリさんだ。チリさんの胸元に頭を預け、ぴったり体を密着させる。チリさんの匂いに包まれながら、下の方で動く指に意識を集中させた。
「……あ、う……」
一本の指が、なかに入ってきた。肉と肉を押し広げるような感覚に脚を擦り寄せる。もうえっちしすぎてゆるゆるなんじゃないかと思うけど、えっちな気持ちになると自然としまってくれるみたいで、いつまでも気持ちいい。チリさんの指が、窮屈な私のなかを擦ってくる。
「う〜〜、……いく」
「なまえ、かわいい」
まだ一本目なのに、チリさんの巧みな指使いのせいでもうイカされてしまった。体を縮こませてビクビク震えていたら、またキスが降ってくる。手錠があると変な体勢のままでいなきゃいけないから、変なところに力が入るなあ。まあ痛くないだけマシなのかな。
雑念の中、私が一人で勝手によがっている間にチリさんは寝そべったまま私の服を脱がし始めた。でも、すぐに手が止まった。重大な事実に気がついたのだ。
「あかん。手錠しとったら服とれんわ。あーあ。しくった」
「あはあはっ、確かに〜」
おかしくて声をあげて笑ったら、チリさんも楽しそうにため息をついた。確かに、腕が通らないとシャツを脱げない。下はそのままおろせばいいだけだけど。
そしたら、チリさんは何かを思いついたようにベッドから飛び降りた。
「切っちゃろ」
ええっ。何を?と思ったら、ハサミを手に戻ってきた。あれだ、布とかが切れる大きなやつ。まさか服を切ろうとしているの?
わざわざハサミを取りに行くくらいなら、すぐそこにある鍵で外せばいいのに……でもまあ、そっちの方が雰囲気出るよね、と納得する。なに納得してるの?わたし。
じっとしていたら、本当にシャツにハサミをいれて容赦なくジャキンジャキンと切っていくチリさん。刃が肌にあたってすごくつめたい。それより、どうせ脱ぐと思ってブラつけてなくてよかった……この調子じゃたぶんそれも切られてたもん。
「チリさんのえっち……」
普通なら開かないところから服が開かれ、上半身があらわになった。演技っぽくそんなことを言うと、「なまえのがえっちやん」と真面目な顔で言い返されて、ものすごく恥ずかしい。チリさんがボケつぶさないでよ、もー。


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