03

althaea0rosea

まだ服を剥かれただけにも関わらず、発情の反応で既に息絶え絶えの私には、たとえこれからどんな事態に見舞われようとも、ただ流れに身を任せることしかできませんでした。
「はァ、…………ええ香り……」
格好の獲物を前にして理性を破綻させたケモノは、不格好に開いた口の端から恥ずかしげもなく涎を零し、恍惚とした表情で食事を始めてしまいます。ベッドのヘリに両膝を置いて、制服の中からとっくに興奮しきったモノを取り出して、事後かと思うほどに濡れて待ちくたびれた私の中に、前準備もなく一気にそれを押し込みました。
「っあ、ぁ、……ッ、うぁ、う……や、っ」
途端に駆け巡る一縷の衝撃。全身を貫くような快楽の波。ただ侵入を赦しただけでそこまでの刺激を拾ってしまうのは、今までで一番と言っていいほど強い発情を引き起こしているからでしょうか。
それはきっと、今まで私が囚われていたあの独房が常に薄い抑制剤の混じった空気で満たされていたから。直に吸う鬼の甘い香りがとてつもなく強烈なこともあり、今までの全てを凌駕するほどの反応が出てしまっているのでしょう。そんな予想も、鬼が動き出すとすぐに弾け飛んでしまいました。
「ゃっ、あぁ……っ、……はぁっ、ん、ッ」
発情した時、いつも無機質な冷たい機械で処理されていた箇所を、血の通った温かい肉棒が貫いていく様は、比較しようもない熱を私の身体に与えました。強い力で組み敷かれ、ボロボロにささくれた木材のベッドの上でもがき、喘いで、肌が傷ついたところで、その刺激にすら快感を得てしまう。
強い発情に見舞われると、感覚神経がイカレて全ての刺激が快楽に変わる……というのは私の身体を使って行われた博士の実験によって既に立証されています。そんなにもよく出来た人間の体質を心底呪いながら、抵抗もできずに、ただひたすら、幾度も訪れる絶頂に次第に身を滅ぼしました。

鬼は両眼に赤い光を灯し、幾度となく痙攣し収縮する私のナカを愉しむように、身をくねらせて必死になって動いています。
「ごめんなあ、も、止まらんわ……こんなん、うちだって、上にバレたら、間違いなく絞め殺されるに決まっとんのやけど、っ、もう、止まらんのや……お互い難儀やなぁ……、ごめんな、……っ」
「っ、や、!……っあ、はぁ、ん、ぁ……っ」
ごめんな、ごめんな、と同じ言葉を繰り返しながら、私を犯し続けている。脳みそが焼けて破裂しそうなほど熱くなっている中、確かに聞こえてきた謝罪の言葉。本能的でありながら、いたく良心的な鬼だと思いました。私を襲いながら私を気遣う鬼は、そんな矛盾を抱えていることにむしろ自分自身の方が困惑しているよう。
「……ああ、も、トびそう……っ、あんた、ええ身体やね……ほんま、あのひとが好きそうな図体しとるわ……ッ」
しかし、行動している時点で圧倒的に本能が勝る。国の鬼ほど強固な理性と強大な力を持つはずが、目の前の鬼はこんなにも呆気なく人間の発情の色香に乱されてしまいました。
本能に抗えない辛さを……本能に理性が崩されてしまう辛さを、私自身もよく理解しているから、興奮しながら顔を歪ませる鬼に、次第に同情の気持ちが芽生え……そのまま私の快楽は幾度目かの頂点に達しました。


中に撒き散らされた独特な性の香りは、さらに私の思考を奪いました。行為中も今も、引き続き身体の自制が効かず、文字通り何もすることが出来ない。喉は既に枯らしてしまい、もう声を出すことも出来ません。
「ッはぁーっ、……っはぁ、ん、っ……」
「……は、……、はぁ……っ」
鬼は未だに私の中にいたままで、背中を丸め、同じように口を大きく開けて呼吸をすることに集中しています。どちらの息がより荒いのか、そんなことは気にしたところで仕方がない。鬼は、またゆっくりと腰を動かしながら、密着するように私に覆いかぶさりました。
「あんた……えぐ、……こんな気持ちいのなんかいつぶりや……」
「……っはぁ、……げほっ、ぁ、……」
「てか、……追い討ち、かけんといて……なんや、この美味そうな匂い……こんな血ィ通わせて……。ほんまもんのお宝やないの……」
血?
気づかないうちにどこかで皮膚が切れていたのでしょうか。快楽を拾いすぎた今の私には全くと言っていいほど痛みがなく、全く気づかなかったけれど、しかし私には分からない血の香りを鬼は敏感に感じ取ることができる。
返事が出来ずにただひたすら呼吸を繰り返す私に、鬼は一方的に語りかけてきました。
「なぁ、ちょっとでいいから……分けてくれん……?さっきから、腹の虫が収まらんくて敵わんのや……どうせここまでやってもうたら、もう変わらんやろ……」
返事は元より期待していなかったようでした。鬼はもはや諦めたような顔をして、中身を吐き出してもなお質量の変わらないそれをまた打ち付けながら、呼吸を整え、そして、涎塗れの私の唇を塞ぎました。

――その途端。
私の唾液を口に含んだ途端、鬼の身体がガタッと大きく震え上がりました。飽きずに動いていた腰の動きも止まって、どころか勢いのあまり引き抜かれてしまった。
「は?……やば、ほんまに言うとる……?」
鬼は再び唇に吸い付き、長い舌で口の中の隅々まで舐り尽くしました。それからまた顔をあげて、信じられないものを見るように私のことを見下ろしている。先程まではこれでも申し訳なさげな顔をして眉を下げていたのに、今は……今は、おもちゃを見つけた子供のように、目を見開いて歓喜に満ちた表情をしています。
そして、ここから私は、この鬼の真の本能を目の当たりにすることになりました。


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