パルデア四天王図鑑No.1
チリ
じめんタイプつかい
とくせい:メロメロボディ(同性にも有効)
『一見怖そうな 見た目だが 人のいい笑顔で コガネ弁を 話すギャップが 周囲の 人々を 魅了する。』
『気に入った子には とことん甘くなり 独占欲を 発揮する。たまに見せる 鋭い目つきは 牽制の 意味も 持つ。』
+
専門家である私調べによると、チリちゃんは外を歩けばすぐニンゲンの心を奪うという、なんとも罪深いとくせいの持ち主である。それだけではなく、女の子なのに女の子相手に常時メロメロを発動してるし、エンニュートとは違って同性にもフェロモンガスをばら撒きまくってる。もちろん男の子に対しても効果があるからたちが悪い。
でも本人はそれらを悪いことだとは思っておらず、周囲から視線を集めることをたぶん『いつものこと』だと思って流してる感じがする。それではとても困る。なぜならチリちゃんの素敵な笑顔に勘違いして近づいてくるニンゲンが出てくるかもしれないから。
そう、過去の私のように!
だからチリちゃんを決して一人で歩かせてはいけないのだ。外を歩く時はなるべく隣を占領して、手を繋ぐだけじゃなく腕ごとしがみついて仲良し二人組のアピールをしなければならない。チリちゃんは、私のだから!
「なまえ、あんまり体重かけんといて。腕もげそうやわ」
「これは愛の重さなの」
「そか!チリちゃんの肩最強やから、もっと寄りかかってもええんやで」
「ふふふ、チリちゃんすごーい!」
ふとした瞬間におちゃらけたことを言うチリちゃんが、かわいい。それに乗っかって、こんなふうにちょっとアホっぽい会話を交わすのがいつもの楽しみ。でも本当に腕がもげたら大変だから、少し姿勢を正して改めて手を繋ぎ直した。
そうしたら、すかさず指が絡んできてあっという間に恋人繋ぎに早変わり。視線は前に向けたまま、歩幅も変わらず、言葉もなく。チリちゃんは私の気を引くとか、気を使うとかじゃなく、素でそういうことをするからやだ。好き。大人らしいところを見せられる度に、いちいちときめいてしまう私、そろそろ胸焼けで死にそうかも。
テーブルシティのはずれ。今はチリちゃんの職場であるポケモンリーグからの帰り道。学校を卒業してから、ネモやボタンと同じようにほとんどコネのような形で入社し、いちチャンピオンランクとして各地のジムで事務仕事(ダジャレではない)をしている私だが、今日はオモダカさんからの依頼で久々にこっちに顔を出していた。
久しぶりにお仕事モードのチリちゃんが見れると思ったのに、私が来ていると分かると速攻でお仕事を片付けてアオキさんも驚く定時退社をキメるものだから、むしろ私の方が待たせることになってしまった。まあ、今がちょうど挑戦者が少なくなる時期で、業務に余裕があったというのもあるのだろうけど。
同じく同期の、オモダカさんの右腕としてバリバリ働くネモにわーきゃー絡まれたり、エンジニアとしてパソコンとにらめっこするボタンにサンドイッチの差し入れをして泣きつかれたり、新鮮な気持ちで一日出張を終えた私。
「なまえさん、ご苦労さまでした。いつもと違う現場はなかなか慣れなかったでしょう。ですが、あなたの働きで予定より早く臨時業務を終えることができました。ありがとう、感謝します」
「いえいえ、そんな」
「なまえさんは優秀ですから、今後もそばに置いておきたいという気持ちもありますが……“あなた”がその様子では、やはり職場を離して正解でしたね」
さっきから視界に映るから気になって仕方がないのだけれど、リーグの事務所前で立ち話をする私たちから少し離れたところの壁に、チリちゃんが腕を組んで寄りかかっている。仮にも上司なのに早く終わらんかなと言いたげな目でじっと会話を見守っているから、とうとうオモダカさんが反応してしまった。
(……ちゃんとオモダカさんの視界の外にいたはずなのにバレバレだなんて、今のトップは気配だけで存在を察知したのだろうか。すごすぎる。これがトップチャンピオン……。)
「いいえ、なまえさんの目の動きが分かりやすくって」
「あ、はい。すみません……」
私のせいだった……。
小声で教えてくれたことで恥ずかしくなる私。チリちゃんは存在がバレたことでもう気にする素振りもなく近寄ってきた。
「またまたぁ、オモダカさん。仕事とプライベートは割り切るタイプですから。今はもう退勤させてもろたんで、どんなもんか様子を見に来ただけです。べつに邪魔しに来たとかやないですから。なー?」
「ふふ、そうですか」
「なーじゃないよ。オモダカさん困ってるよ」
なんだか言い訳がましいこと言ってるけど、結局はただ急かしているのと変わらないチリちゃんの言葉に、優しいオモダカさんは「本日は大変助かりました」と簡単に締めくくってすぐに私を解放してくれた。
そして、帰り道に戻る。
同じパルデアリーグの上司の下で働いている以上、チリちゃんと一緒に働きたいという気持ちはもちろんあるにはあるのだが、各地の自然に囲まれながらの事務仕事も案外自分の性にあっているというか。私は現状で満足しているから文句なんてひとつもないのに、そうではない人もいるらしい。
主に、今私の隣にいる人。
四天王という役職だけでも忙しいのに、チリちゃんは私が挑戦者側だった時から変わらず、チャンピオンテストの第一関門である面接官も同時に受け持っている。そのせいで、あんまりほいほいと遠出するわけにもいかず、ほとんどの時間リーグに常駐するはめになっている。
――はずだけど、ジムの視察と称して無理やり時間を作って私に会いに来ることも多い。理由を聞けば「会いたかったから」ただそれだけが返ってくる。職権乱用。
そして「なまえもリーグにいたらわざわざ来る必要もないのに」と文句を言われる。チリちゃんはお仕事に対しては誠実で、やる時はやるし、日常的にもあまりわがままを言う人ではないから、ふとした時に零れる本音が矢のように私の心臓に突き刺さる。私はその度に、オモダカさんが言うように職場が離れていて良かった、と思う。
一緒にいたら絶対仕事にならないじゃん。
主に私が。
今日こそ、危なかった。同じ建物にいると分かっているだけで、どこかに緑髪のかっこいい人がいないかな〜と探してしまう自分がいた。最後まで気付かないふりをしてくれていたようだけど、ずっと隣にいたオモダカさんにはきっと心の中でくすくすと笑われていたかも。
チリちゃんもそうだったのかな。少しでも一緒にいたいと思ってくれているからこそ、こうして一緒に退勤して、手を繋いで家に帰っている今が嬉しいのかもしれない。チリちゃんはこころなしか楽しそうに微笑んでいる。でも大げさに喜ばないところがいじらしい。ま、今は外だからね。
「ふふへへ」
「なんやその声。気色わる」
いつ見てもかっこいい端正な横顔をばっちり視界に収めながら歩いていたら、前方の柱にぶつかりそうになるのも気づかず、繋いでいる手と反対側の手で肩を抱きとめられた。よろよろとチリちゃんの方によろける私。
「おっとっと」
「ちょお、どこ見てん」
「ん?チリちゃん見てた」
「ったく、なまえはよう余所見するから一人じゃ外歩かせられんわ」
一人で歩かせられないだって。私と同じこと言ってる。
「大丈夫だよ。私、チリちゃんがいなかったらちゃんと前見て歩くもん」
「あほ」
背を丸め、軽ーく頭突きをするような動作で私を見下ろしてくる。あほじゃないもん。チリちゃんがいちいち私の目を奪うのが悪いんだもん。そうやって抗議の目を向けていたら、今度は地面の段差に引っかかってまたバランスを崩した。
「あっ」と慌ててチリちゃんにしがみついたはいいものの、そのせいで屈んでいたチリちゃんの額に私の頭がクリティカルヒット!
ゴッ。結構鈍い音がしたような、しなかったような……。
「……。何すんねん」
「ご、ごめんなさい」
二回目、さらに実害を伴うとなるとさすがに怒る気になったのか、少し冷ややかな目線がおりてくる。チリちゃんのこういう顔はヤンキー味を感じられて結構怖いんだけど、こういう時はあまえる攻撃をするといいって図鑑説明に載ってた。
腕を伸ばしてチリちゃんの額のぶつけたところを優しく撫でながら、笑いかけてみる。なるべく申し訳なさそうな顔をするのがポイント。
「前見て歩け言うたやろ」
「うん、ごめんねチリちゃん。痛かった?」
「……チリちゃんのデコ最強やから、全然痛ない」
「あはは、チリちゃんすごーい!」
「でも許さん」
「ええっ」
むすっとした顔、かわいい。でも背筋をぴんと伸ばしてそっぽを向いてしまうから困った。身長差を利用してほんの少し向こうの方を向かれただけで、私からはもうチリちゃんのお顔が見えなくなってしまう。
なーんて、くつくつ喉を鳴らして笑っているのが聞こえてくるから、チリちゃんが本当は怒っていないことなんか丸わかりである。今のチリちゃんはたぶん構ってちゃんモードなのだ。このまま付き合ってあげることにした。
「チリちゃん、おねがい。許してよ〜」
「いやや」
「ねーえ、こっち向いてよ」
「んー……」
チリちゃんの最強の肩を引っ張って、必死に気を引く私。ますます顔の向きを変えて、ほとんど真横を向くチリちゃん。反抗期かな?こうなったらもうしょうがないから、奥の手を使うしかない。
「チリちゃん、だーいすき。チリちゃんが一番!なんでもお願い聞くから、許して?」
「よっしゃ!ゆるす」
単純すぎる。単純すぎて、何度これで乗り切ってきたか分からない。困った時はとりあえずこれを言っておけばいいみたいなとこある。これも図鑑説明に書いておこう。
チリ
じめんタイプつかい
とくせい:メロメロボディ(同性にも有効)
『一見怖そうな 見た目だが 人のいい笑顔で コガネ弁を 話すギャップが 周囲の 人々を 魅了する。』
『気に入った子には とことん甘くなり 独占欲を 発揮する。たまに見せる 鋭い目つきは 牽制の 意味も 持つ。』
+
専門家である私調べによると、チリちゃんは外を歩けばすぐニンゲンの心を奪うという、なんとも罪深いとくせいの持ち主である。それだけではなく、女の子なのに女の子相手に常時メロメロを発動してるし、エンニュートとは違って同性にもフェロモンガスをばら撒きまくってる。もちろん男の子に対しても効果があるからたちが悪い。
でも本人はそれらを悪いことだとは思っておらず、周囲から視線を集めることをたぶん『いつものこと』だと思って流してる感じがする。それではとても困る。なぜならチリちゃんの素敵な笑顔に勘違いして近づいてくるニンゲンが出てくるかもしれないから。
そう、過去の私のように!
だからチリちゃんを決して一人で歩かせてはいけないのだ。外を歩く時はなるべく隣を占領して、手を繋ぐだけじゃなく腕ごとしがみついて仲良し二人組のアピールをしなければならない。チリちゃんは、私のだから!
「なまえ、あんまり体重かけんといて。腕もげそうやわ」
「これは愛の重さなの」
「そか!チリちゃんの肩最強やから、もっと寄りかかってもええんやで」
「ふふふ、チリちゃんすごーい!」
ふとした瞬間におちゃらけたことを言うチリちゃんが、かわいい。それに乗っかって、こんなふうにちょっとアホっぽい会話を交わすのがいつもの楽しみ。でも本当に腕がもげたら大変だから、少し姿勢を正して改めて手を繋ぎ直した。
そうしたら、すかさず指が絡んできてあっという間に恋人繋ぎに早変わり。視線は前に向けたまま、歩幅も変わらず、言葉もなく。チリちゃんは私の気を引くとか、気を使うとかじゃなく、素でそういうことをするからやだ。好き。大人らしいところを見せられる度に、いちいちときめいてしまう私、そろそろ胸焼けで死にそうかも。
テーブルシティのはずれ。今はチリちゃんの職場であるポケモンリーグからの帰り道。学校を卒業してから、ネモやボタンと同じようにほとんどコネのような形で入社し、いちチャンピオンランクとして各地のジムで事務仕事(ダジャレではない)をしている私だが、今日はオモダカさんからの依頼で久々にこっちに顔を出していた。
久しぶりにお仕事モードのチリちゃんが見れると思ったのに、私が来ていると分かると速攻でお仕事を片付けてアオキさんも驚く定時退社をキメるものだから、むしろ私の方が待たせることになってしまった。まあ、今がちょうど挑戦者が少なくなる時期で、業務に余裕があったというのもあるのだろうけど。
同じく同期の、オモダカさんの右腕としてバリバリ働くネモにわーきゃー絡まれたり、エンジニアとしてパソコンとにらめっこするボタンにサンドイッチの差し入れをして泣きつかれたり、新鮮な気持ちで一日出張を終えた私。
「なまえさん、ご苦労さまでした。いつもと違う現場はなかなか慣れなかったでしょう。ですが、あなたの働きで予定より早く臨時業務を終えることができました。ありがとう、感謝します」
「いえいえ、そんな」
「なまえさんは優秀ですから、今後もそばに置いておきたいという気持ちもありますが……“あなた”がその様子では、やはり職場を離して正解でしたね」
さっきから視界に映るから気になって仕方がないのだけれど、リーグの事務所前で立ち話をする私たちから少し離れたところの壁に、チリちゃんが腕を組んで寄りかかっている。仮にも上司なのに早く終わらんかなと言いたげな目でじっと会話を見守っているから、とうとうオモダカさんが反応してしまった。
(……ちゃんとオモダカさんの視界の外にいたはずなのにバレバレだなんて、今のトップは気配だけで存在を察知したのだろうか。すごすぎる。これがトップチャンピオン……。)
「いいえ、なまえさんの目の動きが分かりやすくって」
「あ、はい。すみません……」
私のせいだった……。
小声で教えてくれたことで恥ずかしくなる私。チリちゃんは存在がバレたことでもう気にする素振りもなく近寄ってきた。
「またまたぁ、オモダカさん。仕事とプライベートは割り切るタイプですから。今はもう退勤させてもろたんで、どんなもんか様子を見に来ただけです。べつに邪魔しに来たとかやないですから。なー?」
「ふふ、そうですか」
「なーじゃないよ。オモダカさん困ってるよ」
なんだか言い訳がましいこと言ってるけど、結局はただ急かしているのと変わらないチリちゃんの言葉に、優しいオモダカさんは「本日は大変助かりました」と簡単に締めくくってすぐに私を解放してくれた。
そして、帰り道に戻る。
同じパルデアリーグの上司の下で働いている以上、チリちゃんと一緒に働きたいという気持ちはもちろんあるにはあるのだが、各地の自然に囲まれながらの事務仕事も案外自分の性にあっているというか。私は現状で満足しているから文句なんてひとつもないのに、そうではない人もいるらしい。
主に、今私の隣にいる人。
四天王という役職だけでも忙しいのに、チリちゃんは私が挑戦者側だった時から変わらず、チャンピオンテストの第一関門である面接官も同時に受け持っている。そのせいで、あんまりほいほいと遠出するわけにもいかず、ほとんどの時間リーグに常駐するはめになっている。
――はずだけど、ジムの視察と称して無理やり時間を作って私に会いに来ることも多い。理由を聞けば「会いたかったから」ただそれだけが返ってくる。職権乱用。
そして「なまえもリーグにいたらわざわざ来る必要もないのに」と文句を言われる。チリちゃんはお仕事に対しては誠実で、やる時はやるし、日常的にもあまりわがままを言う人ではないから、ふとした時に零れる本音が矢のように私の心臓に突き刺さる。私はその度に、オモダカさんが言うように職場が離れていて良かった、と思う。
一緒にいたら絶対仕事にならないじゃん。
主に私が。
今日こそ、危なかった。同じ建物にいると分かっているだけで、どこかに緑髪のかっこいい人がいないかな〜と探してしまう自分がいた。最後まで気付かないふりをしてくれていたようだけど、ずっと隣にいたオモダカさんにはきっと心の中でくすくすと笑われていたかも。
チリちゃんもそうだったのかな。少しでも一緒にいたいと思ってくれているからこそ、こうして一緒に退勤して、手を繋いで家に帰っている今が嬉しいのかもしれない。チリちゃんはこころなしか楽しそうに微笑んでいる。でも大げさに喜ばないところがいじらしい。ま、今は外だからね。
「ふふへへ」
「なんやその声。気色わる」
いつ見てもかっこいい端正な横顔をばっちり視界に収めながら歩いていたら、前方の柱にぶつかりそうになるのも気づかず、繋いでいる手と反対側の手で肩を抱きとめられた。よろよろとチリちゃんの方によろける私。
「おっとっと」
「ちょお、どこ見てん」
「ん?チリちゃん見てた」
「ったく、なまえはよう余所見するから一人じゃ外歩かせられんわ」
一人で歩かせられないだって。私と同じこと言ってる。
「大丈夫だよ。私、チリちゃんがいなかったらちゃんと前見て歩くもん」
「あほ」
背を丸め、軽ーく頭突きをするような動作で私を見下ろしてくる。あほじゃないもん。チリちゃんがいちいち私の目を奪うのが悪いんだもん。そうやって抗議の目を向けていたら、今度は地面の段差に引っかかってまたバランスを崩した。
「あっ」と慌ててチリちゃんにしがみついたはいいものの、そのせいで屈んでいたチリちゃんの額に私の頭がクリティカルヒット!
ゴッ。結構鈍い音がしたような、しなかったような……。
「……。何すんねん」
「ご、ごめんなさい」
二回目、さらに実害を伴うとなるとさすがに怒る気になったのか、少し冷ややかな目線がおりてくる。チリちゃんのこういう顔はヤンキー味を感じられて結構怖いんだけど、こういう時はあまえる攻撃をするといいって図鑑説明に載ってた。
腕を伸ばしてチリちゃんの額のぶつけたところを優しく撫でながら、笑いかけてみる。なるべく申し訳なさそうな顔をするのがポイント。
「前見て歩け言うたやろ」
「うん、ごめんねチリちゃん。痛かった?」
「……チリちゃんのデコ最強やから、全然痛ない」
「あはは、チリちゃんすごーい!」
「でも許さん」
「ええっ」
むすっとした顔、かわいい。でも背筋をぴんと伸ばしてそっぽを向いてしまうから困った。身長差を利用してほんの少し向こうの方を向かれただけで、私からはもうチリちゃんのお顔が見えなくなってしまう。
なーんて、くつくつ喉を鳴らして笑っているのが聞こえてくるから、チリちゃんが本当は怒っていないことなんか丸わかりである。今のチリちゃんはたぶん構ってちゃんモードなのだ。このまま付き合ってあげることにした。
「チリちゃん、おねがい。許してよ〜」
「いやや」
「ねーえ、こっち向いてよ」
「んー……」
チリちゃんの最強の肩を引っ張って、必死に気を引く私。ますます顔の向きを変えて、ほとんど真横を向くチリちゃん。反抗期かな?こうなったらもうしょうがないから、奥の手を使うしかない。
「チリちゃん、だーいすき。チリちゃんが一番!なんでもお願い聞くから、許して?」
「よっしゃ!ゆるす」
単純すぎる。単純すぎて、何度これで乗り切ってきたか分からない。困った時はとりあえずこれを言っておけばいいみたいなとこある。これも図鑑説明に書いておこう。